遊び心

未来予想図Ⅱ~カルツォーネ~

2023年の春、HICOを訪れたあるカップルの話 Vol.3

●これまでのあらすじ(Vol.1、Vol.2)

2023年の春。

東京オリンピックも終わり、3年が経った頃のこと。

これは、未来のHICOを訪れたあるカップルの話です。

お客様視点で、HICOはどんなレストランになっているか、想像してみました。

次はいよいよ、看板料理カルツォーネを提供します!

********************************************************************************

こちらにどうぞ、とスタッフに言われて、私たちはカウンターへと通された。

高い天井。プロペラが回っている。腰をおろすと、庭の景色がよく見えた。すっかり陽が落ちて、ライトアップがよく映える。

「このカウンター素敵」

「俺もここにじっくり座ってみたかったんだ」

カウンターの中には石窯と、調理スペース。畳1帖はありそうな白いまな板がある。それと、包丁。あらためて見ると、鏡のように光を反射して煌めいている。こんなにきれいに磨かれた包丁をみるのはやっぱり初めてかもしれない。ものすごく高い包丁なんだろうな・・・。

「あの、その包丁って、いくらくらいするんですか?」

私のこころを見透かしたように彼がオーナーに聞いた。

「2万円くらいです」

「え、そうなんですか?」私は、驚いた。

「20万円くらいするやつかと思いました」

「本焼っていって、鋼だけで作られているものはそれくらいしますが、これは軟鉄と合わせで作ってますから、そこまでではありません。ただ、難しい材質なので上手に作れる職人さんは数えるほどしかいないそうです」

「研ぎ方がすごいんですね、きっと」

と彼が言った。

「私を生かしてくれる大事な商売道具ですから」

オーナーはにこっと応えて、「さて、うちの看板料理を召し上がって頂きますね」と、大理石の台の上でピザ生地を伸ばし始めた。

片手で持ちあげてはもう一方の手でテンポよくたたきつけて、どんどん生地は大きくなっていく。

「通販もやってらっしゃるんですよね?」

「はい、カルツォーネ専門で。お陰様で、1日100食くらい売れてますよ」

伸ばした生地に生ハムを敷いて、たくさんのほうれん草、バジル、セージ、タイム、などのせながらオーナーは答えた。作業中に悪いかな、と思いながらも、なんか、話したくなってしまう。

「すごーい!5年前なんて、みんなカルツォーネって何?って感じだったもんね」

「カルツォーネの概念を広めたのはオーナーだと思うよ」と彼。

オーナーは冷蔵庫から、手の平にちょうど載るくらいの楕円形の白いカプセルを取り出して、生地の上に乗せ、さらに包み込んだ。

「それ、なんですか?」

とすかさず聞くと、

「ソースを固めたものです。これを生地に包んで450度まで温度を上げた石窯で一気に焼くと・・・いや、これは楽しみにしておいていただきましょうか」

彼を見ると、ニヤニヤしている。

「俺は一度、取材に来たときご馳走になったことあるんだ。めちゃくちゃ旨いぜ!」

ほんの2分もかかってないと思う。

焼けました、といって、オーナーが窯から取り出したそれは、こんがりと焼けて、丸く膨らんでいた。

「カルツォーネとはイタリア語でズボンという意味です。普通は半月型の大きな餃子みたいな形ですが、うちは専門店なので色々とアレンジさせてもらってます。これはHICO定番のカルツォーネのひとつ。通称”白い爆弾”」

桔梗やコスモスのような薄紫や白、薄紅色の花、香り豊かなハーブに囲まれて、カルツォーネは盛られてきた。器は木製の、少し深みのあるお盆型で、直径30cmはありそう。

「いいなあ、これ」

爆弾というより、ブーケだ。

「ちょっと失礼しますね」

オーナーは柳刃包丁をきらきらと反射させて、私たちの前に立った。尺1寸(約33cm)あるというとても長い柳刃包丁だ。私も安い柳刃包丁を持っているけれど7寸(約21cm)。オーナーのはまるで日本刀。

「召し上がって頂きやすいように、カットさせてもらいますね」

上から1/3くらいを真横にスッと切っていく。

「すごい切れ味」

思わず声を上げた。下手な人が切ったら、たぶん、ぼろぼろになると思う。

カルツォーネからはグツグツと音が聞こえる。蓋になった上1/3の生地を持ちあげると、湯気が立ち上った。まるでグラタン。パンシチューのイメージ?

「中のハーブや器にそえた花はスタッフが庭で育ててくれたものです」

オーナーが解説してくれた。「生地を崩しながら食べてもらうと良いですよ」

「こんなのはじめて・・・花は食べられるんですか?」

「はい、食用花ですから大丈夫。中のソースに絡めても美味しいです」

横を見ると、彼はフーフー息を吹きかけながらすごい勢いで食べている。

「さいっこう!」

「ほんと、おいしい!」

レストランHICOでの夜はまだこれからだ。

>>>未来予想図Ⅱの続きへ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。