レストランサービスへのこだわり

わざわざ足を運んでくれたお客様に感謝を込めてお土産を渡そうと思っています。それも中途半端なものではなく、本気のお土産。生産性や効率を考えれば、通販で販売しているものの応用がいいかなと思いますが、必要とあらば、お土産のためだけに作ります。コース料理の最後の一品と捉えて良いくらいです。

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お土産を思いっきり工夫する

いま考えているのは、看板料理候補であり、通販のメイン商品にもなりうるカルツォーネ。これのプチサイズを作って、バリエーションを揃えたらどうだろう?と思索中です。たとえば、ハート型のチョコレートパイ風カルツォーネとか。

子供さん用には、ミートソースを入れたカルツォーネも喜んでもらえそうです。翌日の朝食になれば、親御さんも助かるでしょう。レストランでのひと時をもう一度、思い出してくれるかもしれません。

年配の方には、おやき風のカルツォーネなんかどうでしょう。漬物など入れても面白いですよね。他にもマッシュポテトを入れてコロッケ風、カスタードクリームを入れてシュークリームのようにしても良い。いくらでも作れます。

メッセージカード

お土産は、普通のビニール袋で渡すのではなく、通販でも使用するきちんとした梱包を用意します。レストランのロゴや店名を印字して、パッケージデザインはイメージコンセプトであるアウトドアのワクワク感を演出します。石窯をモチーフにしても良い。

そして、メッセージカードはぜひ添えたい。すべて直筆で、ご縁をいただいた感謝を込めたい。読む方もたいへんなので、一言、短くて良いと思うのです。大事にしたいのは、「縁」「感謝」「仁愛」ですから、きちんと行動で示さないといけません。

ネーミングとストーリー

もうひとつ、工夫したいのはネーミングとストーリーです。提供するのはほぼすべてが創作カルツォーネ。独自のネーミングをつけさせてもらいます。たとえば、チョコレートを練りこんだハート型のカルツォーネは「Calzone Felice」(幸せなカルツォーネ)。これはカップル用に仮で考えてますが、いずれにしてもお土産をもらう人達が感じ入る名前をつけます。

ストーリーも欠かせません。もらって嬉しいお土産だけではまだ普通すぎます。ちょっとした感動をプラスアルファする。メッセージカードの裏面に、たとえばQRコードを記載しておき、お客様に読み込んでもらうと、レストランのホームページに飛びます。そこにそのカルツォーネの物語があるわけです。

なぜそれを贈るのか、贈り手の想いや願いが表現さていたり、どんな場面で食べてほしいのか、どういう風に感じてほしいのか、それを直接的でなく感覚的に伝わるように物語を作ります。興味をもってもらえれば、HPの他のページも見てくれるかもしれません。通販にもつながる可能性もありますし、よりお客様との関係を深めることができます。

1to1サービス

以上のことは、完全予約制であれば、グッと深いサービスが可能になります。事前にお客様の情報はある程度わかっているので、準備ができる。男性にはコレ、女性にはコレ、という画一的なものでなく、お客様一人一人のことを知った上で、これを差し上げたい!と思うものを、お土産にします。

若いカップルであっても、すべての若いカップルがチョコレートのカルツォーネを好むわけがない。中には野沢菜が大好きなんですよ、という方もいるかもしれない。それならおやき風だっていいわけです。

人と人との付き合いと相手の立場に立って考えた時の人間的な判断のもとでやるので、ロボットにはできないことです。こうした積み重ねがレストランの独自性となり、100年続く仕組みの礎になるはず。そう考えています。

器には既製品を使わない

器とは面白いものです。

料理の本質とは関係なく、良くも悪くも見せてくれる。レストランで料理を味わう楽しさを演出するひとつには、器は欠かせません。高級レストランほど盛り付け、器に変化を持たせるのはそれが付加価値であるからです。どんなに手をかけて作られた一級品の料理も、ありきたりな白い皿に盛られては価値が半減する。言いかえれば、お金を払う価値がなくなります。

まして、ほんの少しでも欠けていたらどうでしょう?実際にあることです。私は時々、行儀悪いかもしれませんが、皿を持ちあげて底を見ることがあります。すると欠けていることがある。パッと見て美しい盛り付け、きれいな器で、味も良かった、でも皿の底は欠けてる。というのでは、せっかくの料理が台無しです。

スティーブ・ジョブスはコンピューターの裏側、はんだ付けにまで美しさを要求したという。そんなところまで誰が見るんだ?という技術者の問いに、俺が見るんだと答えました。皿の底まで見る人は必ずいると思います。

少なくとも、お客様からそれなりの単価を頂く場合には、そこまで気を払うのは当たり前のことでしょう。

既製品は使わないというルール

レストランでは、器に既製品を使わない方針です。すべて自分で作るか、作れないものは特注します。それだけで唯一無二になれる。とはいえ、言うは易し行うは難し。実際どうする?といってもすぐに出来ない。

自分で加工するものは木や石などの自然素材。その勉強を始めておきます。どれだけ考えを深めても実際スタートする時に変わる可能性もあります。いま、カルツォーネ専門店、溶岩焼、など考えていますが、方向転換する可能性はゼロではない。

でも「100年持続するレストラン」という目的やレストラン事業において「人生最高の美味しい記憶を創る」という使命感と同様、「既製品を使わない」というルールは、何をメインとするかに関わらず、私のレストランたりえる独自性であります。私は戦術のひとつと捉えていましたが、もしかしたら戦略となりえるかもしれません。

見えないところにこだわる

私はある時を境に、出勤したら必ずトイレ掃除をするようになりました。

今も欠かさず、やっています。掃除をするとはこころを整えること。働き始めた頃、先輩に教わって、その時は恥ずかしながら軽視していたのですが、仕事をしていて気が乱れる時、かならず周囲が散らかっていることに気付き考えを改めました。

また、社会人になり、一流とはどんな人をいうのか?プロフェッショナルとはどんな仕事をするのか?学んでいくにつれ、当たり前のことが当たり前に出来ることが最低条件だと理解しました。

プロフェッショナルのこころ

人の想いやこころは、目に見えません。でも表すことはできる。何によってかというと形です。直には見えないけれども、形としてなら見ることができると私は思います。恋愛ドラマで女性が時々いうところのセリフ「愛してるなら形で示して」です。

レストランサービスでいえば、テーブルセッティング、内装、料理。スタッフの挨拶、話し方までそうです。

たとえば、テーブルセッティングが乱れていたらお客さまはどう思うでしょう?厳しい方は、お客様をもてなそうという気持ちはあるのかな?と疑うでしょう。内装もそう。高級レストランで、サランラップが客席から見えるとろに置いていたら?私なら、がっかりします。駅内の立ち食いそば店ならいざしらず、高級レストランであってはなりません。

でも、レストランに長く勤めた経験からいうと、そういうことはちょっとした気の緩みで、出てしまうことがあります。私自身、それでお客様を幻滅させた事がある。それも一度ではないことを白状します。

プロフェッショナルは違う。こころがどこに宿るかをよく知り、どんな時もお客様を裏切りません。

目に見えないところこそきれいに

お客様の目に届くところを美しく保つのは当然です。汚かったら、それだけでお客様を出迎えるこころがないと判断される。ミシュランの星付きレストランの共通点をご存知でしょうか?例外なくトイレが美しく保たれています。

私はさらに、目に見えないところこそ美しく保つことが大事だと考えています。なぜならそれは、こころを磨くことに他ならないから。

こういう論理です。

[こころは目に見えない=目に見えないところをきれいにする=こころをきれいにする]

掃除をするとはこころを整えることと先輩に教わりましたが、さらに発展させて「掃除をするとはこころを磨くこと」と私は結論付けました。そうすると形となって、お客様に必ず伝わる。

お客様に手紙を書き、一生の付き合いをする

業種問わず、利用いただいたお客様に手書きでハガキや手紙を書く会社は何と3%にも満たないそうです。それなら、手紙を書くだけで、100件あれば、3件のインパクトを与えられる。そんな計算をせずとも、一度、ご縁を頂いたお客様とは一生の付き合いをしていきたいと考えているので、お客様には事あるごとに手紙を書きたいと思っています。

はじめて来ていただいたお礼。四季折々のご挨拶。年末年始のご挨拶。時には、誕生日や、結婚記念日にも。筆やクレヨン、色鉛筆を駆使して、文章だけでなく、イラストなんかも添えたいと思っています。

これも、独自性。唯一無二の印象を与えたい。たとえ、100件中3件の手紙を送るレストランと比較されても「こんな気の利いた手紙をくれるレストランないよね!」と言われたいですね。

お客様を通して教わったレストランサービスのヒント

人から頂いた恩は計り知れません。

私事はあまり書かないようにしてますが、恩を記録することは、驕らず、縁を大事に運営していくことだと思いました。

「勉強になるんじゃないか?」有り難いことにお客様はそんな風に思ってくれていたのだと思います。京都・祇園のお店に連れていってもらったことがありました。いわゆる「いちげんさんお断り」のお店です。私の給料では到底、気軽に行けるお店ではありません。

料理自体はあまり覚えてませんが、白トリュフが生で出てきたのは印象に残ってます。その香はとにかく素晴らしかった。妖艶な感じさえしました。それからbarで舞妓さんと生まれて初めて話をしました。すごい、と思ったのはこの舞妓さんたちの会話力。私を連れていってくださったのは、中小企業の社長です。年の頃、50代前半。年々、増収増益。勢いのある経営者でした。その方の顔をつぶさないようにしながら、話を合わせ、若輩者の私にもちゃんと配慮してくれました。ただニコニコしてるだけではありません。つかず離れず、一線を保ちながら、絶妙な会話をするのです。まだ、20歳にもなっていないような子たちでした。

東京・六本木の一流レストランにて

そのお客様には泊りがけで、六本木のレストランにも連れていっていただいたことがあります。当時、ソムリエとして非常に魅力を感じていた、佐藤陽一さんのお店「MAXIVIN」。日本のソムリエ代表として、2005年に世界ソムリエコンクールに挑戦し、TV番組「プロフェッショナル」にも出演していたので、ご存知の方も多いと思います。

とにかく、会話が絶妙なんですね。ワインに限らず、言うこと成すこと新鮮で、勉強になることばかり。今でもはっきり覚えている会話のやり取りがあります。どんなワインを飲もうか、相談しているときでした。私を連れていってくださったお客様は関西の方なのですが、佐藤さんが私たちに好きなワインのタイプを質問すると、お客様がこう答えました。

「そうですね、土の香がするワインとか、いいよねえ」

「というと、うつぼ公園ですか?それとも、住吉公園あたりのイメージですか?」

佐藤さんがさらっというと、お客様はうれしそうに笑って、

「え?なんで関西人だとわかった?」

「実は私も大阪出身なので。お越し頂いた時からわかってました」

「いやあ、まいったね!ほな、うつぼ公園でいこか!」

時間にして、10秒足らずの会話ですが、私には到底、真似できないと思いました。

ちょっと解説

ごめんなさい、関西の方以外はよくわからなかったと思います。解説すると、うつぼ公園、住吉公園というのは、関西の人なら、特に大阪の人ならよく知っている親しみのある公園なのです。

関西人は、自分が関西人であることを非常にポジティブに考えています。だから、関西圏を出て、関西の方ですか?といわれるとちょっと嬉しい。むしろ、お店でのやりとりを標準語で話すようにしながら、ぽろっと関西弁を忍ばせて、喜ぶようなところがあります(笑)それに気付いてもらうと、単純に嬉しいのです。

一流の会話力

佐藤さんは、私たちの会話を小耳にはさみ、関西人だと見当をつけていたのでしょう。軽妙なやりとりで、ともすれば低俗な空気になりそうなところですが、そうはさせず、むしろ知的で、ある種の緊張感を保ちながら、お客さんの喜びそうなポイントをくすぐっていくサービスには、計算された「技」を感じました。

レストランサービスがお客様にとって、魅力的になるのは、こういった一流の会話ができるかできないかで、大きく左右されると思っています。マニュアルではなく、人に魅力をつける。それは100年先も変わらないレストランサービスでしょう。そこをぶらしてしまえば、もはや人間である必要もない。人工知能や、ロボットに負けてしまうと思います。

お客様は前提として、人生をより豊かに生きるために、楽しむために、レストランに行く。他では出来ない体験を求めて。知識や技術も大事ですが、こういう会話のひとつふたつように出来るようになることで、レストランの価値も、人間の価値も高まると考えています。

A.I.にできない人間力とは

北欧にエストニアというわずか人工130万人の国があります。

ここは、知る人ぞ知る先進国。eガバメント(電子政府)を作った国です。国民90%がICチップの入ったカードを持ち、そこには生まれてから、今に至るまでのデータがすべて入っています。銀行でのやり取りはもちろん、税金の支払い等、国民生活を送る上で必要なすべての情報が、それで管理される。

だから2014円には、会計士や税理士という職業は消滅しました。すべて自動計算されるからです。日本もまた、どんどんA.I.やロボットにできることは、それらに任せるように舵を切りはじめました。「変なホテル」をご存知の方も多いでしょう。ロボットが受付をし、接客を行うホテルです。

その話題性からテレビでも一時、取り上げられましたが、いまでも稼働率は90%。業界平均が56%だといいますから、たいしたものです。しかも人件費コストは、1/5~1/8。

価値さえ変わる時代

今後、危惧するのは、人々の感覚、価値がどんどん変わっていって、ロボットの接客が当たり前になり、抵抗がなくなること。現に、上記のホテルのようなサービスも、家電のA.I.化も、どんどん進んでいます。そんな中、レストランサービスが、お客様を魅了し続けるにはどんな努力が必要か?

そうやって考えていくと、人間力しか、残らないのです。人間力とは、相手の立場にどれだけ立つことが出来、その上でどれだけの出来ることがあるかということ。レストランサービスは特に、この人間力を鍛えることが必要です。

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