感動するほど、旨い刺身を提供するには?

感動するほどうまい刺身は再現性がない。と思っています。

なぜなら、魚のうまみがのるベストなタイミングは魚介法や魚種、個体差がかなりあり、再現することは極めて難しいと考えられるからです。

それでもなお、感動するほどうまい刺身を提供するには、どうすれば実現可能なのか、考えてみました。

目次

科学的に根拠を求めることで再現性の高い料理を出せる

魚は奥が深い。だから面白い。

魚に限らず、素材の旨さは、その素材の科学的な根拠を知らずして、引き出すことはできません。運やカンに左右されず、いつでも100%再現できるのがプロだと思います。

魚の鮮度について

魚の鮮度の定義は、必ずしも獲れたてであるとは限らない。魚種に限らず、理想的な鮮度であるための条件は、「できる限り苦しませることなく活け〆したもの」です。

生物の筋肉はATP(アデノシン三リン酸)が分解されることで発生するエネルギーを使って動きます。それは、人も魚も同じ。魚は水揚げ時、逃れようと暴れまわりますが、この時、暴れれば暴れるほど、ATPを分解し、減少してしまうのです。

ATPはいわば、エネルギーの源。生きている時は、酸素を取り込むことで回復しますが、死ぬと、さらに分解されていきます。

ATPの枯渇により、筋源繊維であるミオシンとアクチンが強く結合して、アクトミオシンを生成し、筋肉は固くなる。これが死後硬直です。

この硬直が解けると消化器の中にいた細菌などにより分解が進みます。腐敗は、こうして始まります。

ということは、暴れまわって、ATPが少ない状態で死ぬと、死後硬直が早まり、鮮度落ちが早くなるということです。

鮮度の良さ=美味しさ?

では、理想的な鮮度の魚はそれだけで美味しいのかどうか。

美味しさとは何か?以前、考えましたが、その時の答えは、「栄養素を摂取できた時の快感」でした。料理するというのは、素材の好ましい風味をどう引き出すか、が大きなテーマになります。

その観点でいくと、たとえ理想的な鮮度の魚を刺身にしても、実は美味しくありません。

ATPがまだたっぷりとある死後硬直前の魚は、無味です。人が感じるこのとできる甘さや、旨みは一切、感じられません。あるとすれば、歯応えのみ。ただ、それもグニグニとした肉のかたまりで、味のないグミを食べているようなものです。

理由はATPの分解とともに、旨み成分は生成されるから。だから、生きている魚を〆て、すぐに食べたとしても、美味しくありません。

お店によっては、生け簀で活かした魚を〆て提供することがありますが、演出としては魅力があるものの、美味しいとは言えないでしょう。

魚の旨みとは?

ATPの分解の工程は、以下のようになります。

ATP(アデノシン三リン酸)→ADP(アデノシン二リン酸)→AMP(アデニル酸)→IMP(イノシン酸)→イノシン(HxR)→ヒポキサンチン(Hx)

これが段階的に進むわけですが、人が味を感じることができるのは、AMP(アデニル酸)とIMP(イノシン酸)。これらは旨味成分と言われていますが、中でもイノシン酸は、グルタミン酸、グアニル酸と並び、旨みの3大成分のひとつで、強い旨みを持ちます。

ちなみにイノシンやヒポキサンチンには味がなく、これらが増えるにしたがって腐敗へと近づいていきます。もちろん、刺身では食べれません。

旨みを最大限引き出す条件とは?

では、旨みを最大限引き出す条件とは、何なのか。

ここで、冒頭の理想的な鮮度の条件に戻ります。

「できる限り苦しませることなく活け〆したもの」

これが大事なのは、魚が暴れると鮮度落ちが早くなるからだけではなく、そもそもの旨み成分を生成するエネルギーの源、ATPの含有量が少なくなるからです。

逆に言うと、ATPの含有量が多ければ多いほど、旨み成分は多くなるということ。

科学的に根拠を求めることで再現性の高い料理が出せます。その知識があるだけで、人生はより豊かになると思います。

具体的にどうすれば、最も旨い刺身を提供できるか…?その条件を考えていきましょう。

理想的な魚の締め方

そのためには、科学的な根拠を求めることが大事です。理由は、それを知ることで、再現性を高めることができるからです。プロならば、お客様に提供する際、ブレがあってはなりません。プロとしても絶対に抑えておきたいことです。

先ほど、魚の鮮度=美味しさではないこと、旨みを最も引き出すには、できる限り苦しませることなく活け〆することが、理想であると書きました。今日は具体的に、お客様に提供することを想定して、理想を求めていきます。

活け〆の方法

魚種にもよりますが、ここでは、鯛などの中型以上の魚を刺身にする場合の理想で考えます。

活け〆するには、延髄を切る、脳を破壊する、首を折るなど、いくつか方法がありますが、ベストだと思うのは、脳を破壊する方法。身がいちばん傷つかないからです。技術がいりますが、眉間からアイスピックなどで刺して、魚が「あ、おれ、死んだ?」と錯覚した状態にするのが目的です。

神経〆はなぜするか?

次に行うのが、神経〆。

脳を破壊しても、魚はまだ生きています。心臓など臓器も動いているし、筋肉も動きます。死んだ、と魚が思っているだけなのです。

神経も同じで、まだ生きている。そのため、〆たあとでも、ATPを消費し続けていくのです。この消費が結構、大きいらしい。神経〆をしたのとしないのでは、死後硬直までにかかる時間がずいぶん違うという。その化学的な数値は資料として持っておらず曖昧ですが、魚は脊椎を軸に筋肉を動かすのですから、頷ける話です。

魚の神経は背骨の真上を通っています。先ほど眉間から差し込んだ穴から、針金を差込み、ぐいぐい入れていきます。尾の根元まで到達したら前後させて、神経をかき出すように破壊させます。これで完了。

血抜きはなぜするか?

次は、血抜きです。

魚の場合、背骨の真下、腹側に大動脈が通っています。その大動脈だけを、良く切れる包丁で切ります。この時、心臓やほかの内臓を傷つけずに、血管だけを切るのが重要です。

そうしてから、海水の中に入れて放血させる。

その時の水温は、魚が普段、生活している水温に合わせるのが良いと思います。氷水につける方もいますが、それでは、心臓の働きが鈍る。

魚は、脳死しているだけで、まだ心臓は生きています。心臓は、ポンプのように血を吸っては吐き出し、体内に循環させています。大動脈を切ったのは、その大きな血液の流れを断ち、そこから放血させるためなのです。

では、なぜ血を抜くのか?

魚が生きているうちは、血は臭みもなく、むしろ、美味しいと感じるほどなのです。ただ、酸化しやすく、腐敗しやすいので、結果的に、最も早く生臭さの原因になります。

また、白身の場合は特に、血が身につくと、外観上、うつくしくない。血抜きをしないと、捌くときに血管を切るので、身についてしまうリスクがあります。

保管温度について

ここまでいけば、下処理は完ぺきに近いと思います。

ATPの消化は限りなく抑えられた状態です。これから、ATPの分解と共に死後硬直へと向かい、そして旨み成分が生成されていく。

その過程で気をつけたいのは温度です。低すぎると、身が縮もうとしてATPを無駄に消費させてしまう。死後硬直が早まるだけで、苦労して神経〆までした意味がありません。

死後硬直が始まるまでは、7~10度が適温だといいますが、確たる根拠はわかりません。ただ、身が縮まず、腐敗が進みにくい、ちょうど良い温度ということで納得はできます。

理想的な魚をどのように手に入れるか?

実際に、お客様にご提供して、感動してもらうには、その前に大事な前提があります。仕入れです。

理想的な条件で入れた魚の必要な情報

ATPを無駄に消失させることなく、理想的に〆られた魚を入れてきたとします。

手元に届いた時はまだ、死後硬直前。活け〆し、神経抜き、血抜き、と処理された魚は、死後硬直に至るまでの時間が、水揚げ後、何もせずにいた場合に比べ、倍以上になります。

また、死後硬直に至るまでの時間は、魚種によって違い、同じ魚種でも、大きなサイズ、小さなサイズでは、変わってきます。原則としては、大きいサイズの方が、もともとのATP含有量が多い為、時間がかかります。死後硬直は、ATPの枯渇とともに始まるからです。

ここで必要な情報は、以下3つ。

1.魚種は何か?

2.大きさはどのくらいか?

3.何時ごろ〆られたのか?

仕入れる前にこれを知らず、カンと予測でいくと、お客様へ提供するときに失敗します。最も旨いタイミングを逃すからです。

流通について

いまの時代、魚を〆る技術も進歩し、流通網も発達しているので、現実的に、そうした魚を仕入れてくるのは、可能になっています。ただ、間違った技術や知識が蔓延しているのも確かで、活け〆として売られている魚の中には、実際には活け〆ではないものも多く混じっています。

私は魚が流通する源流で仕事をしていましたから、漁師さんが水揚げしてきたものが仲買によってセリ落とされ、そこから、中央市場や、直に飲食店へ運ばれるのを目にしてきました。ご存知の方も多いと思いますが、築地など中央市場へ送られる魚は、たとえば北海道からなら、水揚げされてから2日後の魚が並ぶことがほとんどです。早くても1日後のものでしょう。

それには流通経路に理由がありまして、北海道を例に言うと、地方で水揚げされた魚は、各地の浜でセリ落とされ、函館中央市場や札幌中央市場へと送られます。それで1日。

函館や札幌の中央市場から築地へ送られるのは、それからなので2日、というわけです。

付加価値をつける

もちろん、地方で水揚げされたばかりのものを直接発送する仲買や、メーカーも少ないながらいますので、今は、翌日の魚が並ぶことも多くなりました。魚自体の水揚げも年々、減ってきている為、水揚げ量ではなく、質で稼ごうと、付加価値をつけて販売する漁師さんや仲買も出てきています。

神経〆もその過程で発展してきた技術です。それだけ手をかけて、良い品質のものになると高値がつきますから、水揚げが少ない分、そうして高値をつけないと商売が成り立たなくなったのです。

信頼関係なしに仕入れは出来ない

ただ、そんな中、悪質な業者もいます。

水揚げ後、放置して死んだ魚は野締め、といわれます。野締めの魚は、活け〆の技術を駆使したところで、どうにもなりません。心臓が止まっていれば、血抜きもできない。それなのに、あたかも延髄を切って〆たかのように、刃を入れて、市場に流す人がいます。活け〆にすれば2割は高く売れるからです。

これは明らかな詐欺です。分かる人が見れば、分かるのですが、活け〆とは何か、活け〆することでどうなるのか、ということを知らないと、見誤ります。それがまかり通ってしまうのは、飲食店に勤める料理長クラスの人も、市場関係者も、知らない人が多いからです。

少し脱線しましたが、何が言いたいかと言うと、信頼できる業者がいないと、理想的な仕入れは不可能です。長い目で見れば、上の悪質な業者はいずれ、淘汰されると思いますが、本当に理想的な〆方と処理をしている業者もまた、極めて少ないのが現実です。

私の場合、その点、恵まれてます。流通の源流にいたので、ネットワークがある。仕入れをどうするか。というのは、実際にレストランを運営するにあたって、非常に大事だと思うのです。信頼関係なしに仕入れはできません。

膨大な経験と職人の技術を、理論で超える

料理のひとつの大きな目的は、素材の好ましい風味をどう引き出すか、ということ。それは、

栄養素を摂取できた時の快感が、美味しさの源である

と考えるからでした。

ここまで、魚の旨みを引き出すには、どうするのが理想的なのか、科学的な根拠を元に、魚の〆方から仕入れまで考えてきました。

では、実際に、お客様にご提供して、感動してもらうには、どうすればいいのか、考えていきます。

理論で考える

理論でいくと、味わいの理想ははっきりしています。

理想は、先だって考えたように、ATP(アデノシン三リン酸)が分解され、IMP(イノシン酸)が最も高まった時。この時がいちばん、旨みを感じることが出来ます。

ただ、もうひとつ、考えておくべきことがあります。以前、定義した料理の設計5大要素では「味わい」の中に、食感とのバランスを考慮すべきとしました。

日本人は特に、食感にこだわる民族だと思います。刺身は、コリコリとした鮮度の良い状態、もっと言えば、死後硬直中の状態が喜ばれる。鮮度が悪くなると、食感が失われ、やわらかくなります。この食感のことを、日本人は「コシ」と表現します。

料理における味わいの理想は、イノシン酸の含有量が最高潮になり、食感も頂点にある時。このタイミングでお客様に提供できればいい、となる。

料理人の腕

では、現実的にどうやって、最高の旨みとコシを両立させるか。

ここが料理人の腕になります。

知識としては、これまで書いてきた、科学的な根拠を元に、魚の〆方、仕入れをフルに活かし、お客様に提供しようとしている魚が、あと何時間で死後硬直を迎え、旨みが最高潮に達するかを計算します。皿に盛られて、お客様の口に入る瞬間から逆算していくのです。

ATP(アデノシン三リン酸)がIMP(イノシン酸)に完全に分解される瞬間というのは、死後硬直後、しばらく経ってからであることは分かっています。それは魚種によって異なるので、経験値の浅い私は、水産研究所にいって魚種別のデータをもらってこなくてはいけません。

ここは、膨大な時間を重ねて経験として身につけている職人さんには勝てない。

ただ、最短で、同レベルの刺身を出すことはできると思います。理論的に可能だからです。

旨い刺身の条件

私がいま出せる結論。それは、

もっとも旨みが乗る瞬間に合わせて、水分を抜き食感を高めること

死後硬直中は、まだ旨みが最高潮に達していません。旨みが最高潮に達するのは、しばらく後。

ATPの枯渇と共に、筋源繊維であるミオシンとアクチンが強く結合して、アクトミオシンを生成し、筋肉は固くなるのが死後硬直ですが、まだATP(アデノシン三リン酸)はIMP(イノシン酸)に至るまでの分解途中で、完全にIMPへと分解されていない段階なのです。

ということは、IMPが最高潮に達するときは、死後硬直が解け、身が柔らかくなっていく過程であるということ。この現象を、解硬といいますが、細胞中に存在するたんぱく質分解酵素の働きにより、アクトミオシンが小片化するのだそうです。

要は、柔らかくなった分、適度な硬さを取り戻せばいい、という理屈です。そのために、水分を抜き、弾力を戻す。そうすることで、旨みとコシを両立させた刺身ができます。

しかし、色々と考えられる問題があります。

何のために最高の料理を提供するのか

感動するほど旨い刺身を提供するには、について、考えていたら、思いのほか、長くなりました。これまで、魚の旨みを引き出すには、どうするのが理想的なのか、科学的な根拠を元に、魚の〆方から仕入れ、提供の仕方を考えてきました。

結論は出ています。

もっとも旨みが乗る瞬間に合わせて、水分を抜き食感を高めること。

それができれば、感動するほど旨い刺身を提供することが可能です。なぜ感動するのかといえば、そこまで環境を整え、科学的に計算して、提供できるスキルを持ったお店は、極めて稀だからです。

ただ、現実化するにはもう少し考えないといけないことがあります。

タイミングをどう合わせる?

理想的なタイミングをぴったり見はからうのは現実的に困難なのでは?

皆さんもそう思われたと思います。

こだわりの強いお店が、完全予約制で、入店時間まで決まっているのは、素材のもっとも美味しくなる瞬間に食べてほしいからでしょう。そうすることで、タイミングをはかることが出来る。

魚に限らず、16時間火入れして提供する肉料理などもあります。理想をとことん追求すれば、お客様の入店時間から、召し上がるスピードなど、緻密に計算してタイミングを合わせていかなければならないのは頷けます。

でも、それではレストランとして、不十分だと思っていました。

何のための最高の料理か?

もし、渋滞で10分遅れたら?食べるペースが非常に遅い方がいらっしゃったら?そもそも、仕入れた段階で、思いのほか鮮度が良すぎて、お客様に提供するにはまだ早すぎるとしたら?・・・

想定外になるケースはいくらでも考えられます。

最高の料理を提供するためとはいえ、その狭い枠にお客様を当てはめすぎて、お店側が制限しすぎるのは、ちょっと、本質から外れるような気がします。私がお客様の立場なら、窮屈だな~と思うのです。

一生、記憶に残る美味しい記憶を創って差し上げたいと思っている立場からすると、同じ予約制というスタイルであっても、お越し頂いてからは、そんな制限を課さず、心の底から楽しんでもらいたい。料理うんぬんより、HICOで過ごした時間を記憶に刻み込むことの方が、大事です。

しかし、だからといって、料理に妥協はしない。ここがそう簡単にはいかないところです。

先ず勝つべからざるを為して、以て敵の勝つべきを待つ

魚の旨みを引き出すには、どうするのが理想的なのか、科学的な根拠を元に、魚の〆方から仕入れ、提供の仕方、そして課題を考えてきました。

ゴールは見えていて、「もっとも旨みが乗る瞬間に合わせて、水分を抜き食感を高めること」に至るのですが、緻密に計算しないと、タイミングを合わせるのは極めて難しいという問題がありました。何が起こるかわからない、という前提で組み立てないと、失敗してしまう。

扱う相手は自然環境に左右される魚、提供する相手はお客様。どちらも自分が完ぺきにコントロールできるものではないからです。

でも、道はある。その解決策を考えます。

ベストな状態をコントロールするための解決案

感動するほど旨い刺身を提供するには、お客様の口に入る瞬間を緻密に計算しなければなりませんが、本当に、それしか方法はないのか?

ここからが独自性の発揮のしどころ。いくつか、案はあるのです。

たとえば、旨みが最高潮に達したところで、凍らないように急激に冷やす。マイナス1度の氷温室に入れるのがいいかもしれない。そうすれば筋肉収縮により、身は引き締まり、ATP(アデノシン三リン酸)の分解も遅らせることが出来る。

これで、どのくらいの間、旨みを保ったまま、保管できるか?テストする必要があります。

もしくは、死後硬直が始まる前から、緻密な温度管理により、ATPの分解速度を調整する。これは、びっしり側について、経過を見ながらしないといけないので、現実的には厳しいですが、今後は技術革新により可能になるかもしれません。

最も実用的なアイデア

現時点で、いちばん実用的で、有効な案がひとつあります。

それは、死後硬直が終わり、解硬に向かうところで、刺身用にスライスし、瞬間冷凍させる。

冷凍?と思われるかもしれません。

では、なぜ、冷凍だとよくないのでしょうか。

理由はあきらかで、冷凍すると、0度~マイナス5度の間で、細胞と細胞の間に含まれる水分が膨張し、細胞膜を傷つけ、解凍すると敗れた細胞から旨み成分と水分が流出してしまうからです。これがドリップと呼ばれるものの正体です。

それを防ぐにはどうするかというと、0度~マイナス5度までの間をできる限り早く通過させ、膨張する前に凍らせれば、冷凍前と変わらない状態に仕上げることが出来る。

スライスしてから瞬間冷凍させるのは、そのためです。たとえば、魚丸一匹の固まりだと、凍るまでに時間がかかります。卸して、スライスし、薄くしてからアルミバットに入れ、極低温の冷凍庫に入れれば、凍るスピードが速い。

実は、これはもう、実験済みで、今はマイナス60度の業務用冷凍庫がありますから、技術的にも可能なのです。解凍しても生と変わりません。

勝つべからざるは己にある

「死後硬直がら解硬に向かうところで、刺身用にスライスし、瞬間冷凍させる。」

この方法が実用的であるというのは、理由があります。

扱う相手は自然環境に左右される魚、提供する相手はお客様。そのように冒頭に書きましたが、この方法なら、魚はコントロールできます。

たとえ、鮮度が良すぎたとしても、ベストな時に時間を止めれられます。台風で、海が時化て、魚が揚がらない時でも、冷凍室で準備していれば、お客様の期待を裏切りません。

オペレーションも楽です。お客様が来られて、食べるペースを見ながら用意できる。冷凍するタイミングさえ外さなければ、品質は安定します。

先ず勝つべからざるを為して、以て敵の勝つべきを待つ。

孫子の兵法の中でも好きな言葉のひとつです。どんな状況でも、失敗しない環境をまず整えておき、勝てる体制を作る。そうすれば、お客様を落胆させたり、怒らせる気遣いはありません。

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