魚を究める

感動するほど旨い刺身を提供するには?⑥

先ず勝つべからざるを為して、以て敵の勝つべきを待つ

魚の旨みを引き出すには、どうするのが理想的なのか、科学的な根拠を元に、魚の〆方から仕入れ、提供の仕方、そして課題を考えてきました。

ゴールは見えていて、「もっとも旨みが乗る瞬間に合わせて、水分を抜き食感を高めること」に至るのですが、緻密に計算しないと、タイミングを合わせるのは極めて難しいという問題がありました。何が起こるかわからない、という前提で組み立てないと、失敗してしまう。

扱う相手は自然環境に左右される魚、提供する相手はお客様。どちらも自分が完ぺきにコントロールできるものではないからです。

でも、道はある。その解決策を考えます。

解決案

感動するほど旨い刺身を提供するには、お客様の口に入る瞬間を緻密に計算しなければなりませんが、本当に、それしか方法はないのか?

ここからが独自性の発揮のしどころ。いくつか、案はあるのです。

たとえば、旨みが最高潮に達したところで、凍らないように急激に冷やす。マイナス1度の氷温室に入れるのがいいかもしれない。そうすれば筋肉収縮により、身は引き締まり、ATP(アデノシン三リン酸)の分解も遅らせることが出来る。

これで、どのくらいの間、旨みを保ったまま、保管できるか?テストする必要があります。

もしくは、死後硬直が始まる前から、緻密な温度管理により、ATPの分解速度を調整する。これは、びっしり側について、経過を見ながらしないといけないので、現実的には厳しいですが、今後は技術革新により可能になるかもしれません。

最も実用的なアイデア

現時点で、いちばん実用的で、有効な案がひとつあります。

それは、死後硬直が終わり、解硬に向かうところで、刺身用にスライスし、瞬間冷凍させる。

冷凍?と思われるかもしれません。

では、なぜ、冷凍だとよくないのでしょうか。

理由はあきらかで、冷凍すると、0度~マイナス5度の間で、細胞と細胞の間に含まれる水分が膨張し、細胞膜を傷つけ、解凍すると敗れた細胞から旨み成分と水分が流出してしまうからです。これがドリップと呼ばれるものの正体です。

それを防ぐにはどうするかというと、0度~マイナス5度までの間をできる限り早く通過させ、膨張する前に凍らせれば、冷凍前と変わらない状態に仕上げることが出来る。

スライスしてから瞬間冷凍させるのは、そのためです。たとえば、魚丸一匹の固まりだと、凍るまでに時間がかかります。卸して、スライスし、薄くしてからアルミバットに入れ、極低温の冷凍庫に入れれば、凍るスピードが速い。

実は、これはもう、実験済みで、今はマイナス60度の業務用冷凍庫がありますから、技術的にも可能なのです。解凍しても生と変わりません。

勝つべからざるは己にある

「死後硬直がら解硬に向かうところで、刺身用にスライスし、瞬間冷凍させる。」

この方法が実用的であるというのは、理由があります。

扱う相手は自然環境に左右される魚、提供する相手はお客様。そのように冒頭に書きましたが、この方法なら、魚はコントロールできます。

たとえ、鮮度が良すぎたとしても、ベストな時に時間を止めれられます。台風で、海が時化て、魚が揚がらない時でも、冷凍室で準備していれば、お客様の期待を裏切りません。

オペレーションも楽です。お客様が来られて、食べるペースを見ながら用意できる。冷凍するタイミングさえ外さなければ、品質は安定します。

先ず勝つべからざるを為して、以て敵の勝つべきを待つ。

孫子の兵法の中でも好きな言葉のひとつです。どんな状況でも、失敗しない環境をまず整えておき、勝てる体制を作る。そうすれば、お客様を落胆させたり、怒らせる気遣いはありません。

>>>感動するほど旨い刺身を提供するには?を最初から読む

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