遊び心

シャトー・マルゴー|マルゴーズよ、永遠に③

最上のワインだけが持ちうる美しい魔法

5大シャトーの中でも最も女性的で、甘美なワイン、シャトー・マルゴーの物語をお伝えしています。

時は18世紀末、フランス革命が起ころうとする頃。

シャトー・マルゴーに自らを重ね合わせるように生きた、マリ=ジャンヌ・ベキュー、デュバリー夫人で知られる女性の物語。今回が最終章です。

<第一話><第二話>は、こちらからご覧ください。

愉楽

「マルゴーズは、私そのものなのよ・・・」

ジャンヌはそう思っていました。

平民から王の愛人にまで上りつめた彼女を、「あばずれ」と蔑んで、あからさまに無視する人も多くいましたし、もっとひどいのは、彼女そっくりの化粧を施した女性に、ワインの樽を模した筒状のものを着せて、ほとんど裸に近い姿で、町中を歩かせたりもしています。

それは「マルゴーズ」を愛飲するジャンヌへの、辛辣な風刺でもありました。

それでも彼女は平気でした。

その揺るぎない「マルゴーズ」の気品は、彼女をあらゆるしがらみから解放してくれたのです。

時の王、ルイ15世は「マルゴーズ」を手にしながら側近に語りました。

「今まで知りもしなかった全く新しい形の悦楽だよ・・・。こんなにも燃え上がる欲情と、蕩けるような快感がこの世にまだあるとは、思いもしなかった。」

革命

しかし、それから20年以上たった1793年の冬、ジャンヌは粗末ななりで断頭台の下に立つことになります。

もう、彼女も50歳。

ルイ15世とは結局、5年で死に別れ、その後は貴族の愛人となることで生き延びてきました。

そして1789年、フランス革命が起こり、贅沢は悪とされ、貴族をはじめ、国王までもが処刑される異常事態となったのです。

第二話でも書きましたが、当時はアンシャン・レジームといって、非人道的な階層社会でした。民衆ばかりが汗水流して働いて、王族など貴族より上の階級は税金も払わないという、理不尽な身分制度に、民衆が怒ったのです。

「パンがなければ、お菓子を食べたらいいじゃない」

マリー・アントワネットの言葉は、当時を象徴するものとしてよく知られます。皆が飢え苦しんでいるのに、一部の上層階級の者だけは、連日連夜、晩餐会を開くなど、贅を尽くしていたのでした。

邂逅

そうなると「マルゴーズ」も、無事ではありませんでした。

当時の所有者フュメル一家は、過激な革命派にシャトーを没収されたばかりか、人民の敵として、なんと死刑を宣告されてしまいます。

フュメル夫人は、処刑場で20年ぶりにジャンヌを目にします。

ジャンヌは泣き叫び、集まった群衆に慈悲を乞うていました。髪をふり乱し、あの美貌もどこへやら、しわくちゃの恐ろしい、みっともない形相で、暴れまわったといいます。

魔法が、解けてしまったのだわ。

とフュメル夫人は、思いました。

最上のワインだけが持ちうる美しい魔法。甘美なる、嘘。

偽りのない、ありのままの彼女は、それを味わうための生への渇望が、執着心が、捨てきれなかったのです。

多くの貴族たちが毅然と死刑台へと上がる中、ジャンヌだけが、死にあらがい、最後まで喚きました。

フュメル婦人は天を仰いで、呟いたのでした。

Margause dans l’?ternit?

マルゴーズよ、永遠に―――。

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