遊び心

シャトー・ラフィット・ロートシルト|醒めない夢③

ワイングラスの中で永遠に続くロマンス

5大シャトーの中で、最も華やかで端正な印象を受けるのがシャトー・ラフィット・ロートシルト。

物語の主人公は、ポンパドール夫人です。

時のフランス国王ルイ15世と織りなす醒めない夢の物語。今回が最終話になります。

<第一話><第二話>はこちらからどうぞ。

ラフィットとの出会い

王に喜んでもらうために極上のワインを探すポンパドール夫人でしたが、ライバルのコンテ公にタッチの差で後のロマネ・コンティをとられてしまいます。

出し抜かれたポンパドール夫人は、悔しくてたまりません。

当時の宮廷では、もっぱらブルゴーニュワインが飲まれており、その最高峰のワインをコンテ公にとられてしまうと、晩餐会での主役はもちろん、ロマネ・コンティになります。王もそれに、すっかりご満悦の様子。

どうにかして晩餐会での主導権を握りたいとやきもきしているところへ、耳寄りなニュースが飛び込んできました。ボルドー地方に、ロマネ・コンティに負けずとも劣らない、格調高いワインがあるというのです。

「それはそれは、まるでマダムの胸元に輝いておりますルビーのような深い色合いでして、とても華やかな香りがいたします。」

その情報を運んできた男は言いました。

そのワインに口をつけたとき、ポンパドール夫人は驚きます。

えっ、これって・・・?

さまざまな記憶や思いや、人や、夢や、言葉や、あらゆる場面が、一度によみがえってきたような、激しく、大きい感情の波に、彼女は呑まれる感覚に陥りました。

「何なの?」

「いかがでしょう、マダム。晩餐会でお出ししてみては? コンテ公のワインにはない、気高さと華やかさを備えているかと存じますが。」

「このワインの名前は・・・?」

「シャトー・ラフィットと申します。」

晩餐会

かくして、ある晩餐会の席に、シャトー・ラフィットが王の前に出されることになります。王は、感嘆しました。

「素晴らしい・・・。このワインは何だね?」

「はい。本日はポンパドール夫人のご要望をたまわりまして、ボルドー地方に古くからある葡萄園の、極上のワインをご用意いたしました。」

「そうか、君が選んでくれたのか。」

王はポンパドール夫人をやさしく、労わるように見つめました。

当時のベルサイユ宮殿では一日間隔で夜会が開かれ、ビリヤードや、カード遊び、舞踏会、芝居などが行われ、たえず音楽が鳴り響いていたようです。王の晩餐は、夜の10時ころからはじまり、いまのフランス料理と同じように、フルコースで、まずポタージュが出て、前菜、それから肉のロティ(焼いたもの)とサラダ、アントルメ(料理菓子)、最後はフルーツで締めくくるのが通常でした。

同席者も多く、王妃をはじめ、貴族も一緒に食事をすることがあります。そんな中で、グラスを静かに傾けながら、王はポンパドール夫人に聞いたのでした。

「仮面舞踏会でのことを覚えているかい?」

醒めない夢

きらびやかな食卓の明かりが、ワインにきらきらと舞っています。うっとりと、王は、その深いルビー色をした液体を見つめていました。

「君がむかし住んでいた森の近くに、城があったろう。君は狩りの女神ディアーヌに扮していた。」

「はい。」

「華やかな会場の中で、君の大胆な格好は繊細にも見えた。」

「はい。」

「それで、私が近づけば君は遠ざかるし、捕まえたと思ったら、すり抜ける。皆から森の妖精と噂されていたね。」

「はい。」

「あの切なさ、苛立ち。華やかな音楽。笑い声。群衆の中の孤独。格式ばった様式。仮面。それから君が落とした白いハンカチーフ。私を誘ったその匂い。いろんなものが城の中に、渦巻いていたのだった。」

「はい。」

「・・・そんな、味がする。」

このとき、彼女は愛人であり続けることや、策略や、ロマンや、嫉妬、憎しみなどとはかけ離れた、とても満たされた気持でいました。

シャトー・ラフィットは、彼女にあのときの胸の高鳴り、自分が世界の中でただひとりヒロインになれる瞬間を、思い出せてくれたのです。それを、王も感じてくれた!

そのことがとても嬉しかったのでした。

「どうかしたかい?」

王がたずねると、ポンパドール夫人はいたずらっぽく笑って、答えます。

「今日から王様ご用達のワインにしてくださらない?」

のちにシャトー・ラフィットは、世界の大財閥ロートシルト家が購入し、シャトー・ラフィット・ロートシルトと、名前を変えますが、ポンパドール夫人やルイ15世が織りなした華やかなロマンスは、ワイングラスの中で、今も続いているようです。

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