遊び心

サッシカイア|夢と情熱③

イノベーションを起こした夢と情熱

5大シャトー物語の番外編。イタリアのスーパータスカンの元祖、サッシカイアというワインの物語を紹介しています。

主人公は、マリオ・インチーザ・ロケッタ侯爵。彼は無名のワイン産地、ボルゲリで、常識はずれのワインを作り始めます。今回がその最終話。

<第一話><第二話>はこちらからどうぞ。

革命

5大シャトーに負けないワインを作る。マリオ・インチーザ・ロケッタ侯爵は、その可能性を信じ、ひたすら情熱を傾けました。

そして、1968年。ついに革命が、起こります。

マリオ侯爵がワインを作り始めて二十数年、それはごく近しい者だけのプライベートなワインでしたが、その素晴らしさにある人物が感動するのです。

それは妻クラリスの妹が嫁いだ、トスカーナで600年以上の歴史を誇る酒商、アンティノリ家の子息ピエロ。マリオ侯爵の甥にあたる人物ですが、彼が販売を強くすすめたのでした。

「こんなに素晴らしいイタリアワインは飲んだことない。」

マリオ侯爵のワインは、二十数年を経て、作り始めた当初とは比べ物にならないほど洗練されていたのです。

色濃く、やや黒みがかった深いルビー。カシスやブラックベリーなどの凝縮した香りに、ヴァニラのニュアンス。味わいは、まろやかで、複雑。タンニンのきめの細かさ、エレガントさはボルドーの一級シャトーにも比肩しうる・・・。

「それに、こんなに、湧きあがるほどの情熱を感じさせるワインは、世界中探しても見つかりませんよ!」

酒商ピエロ・アンティノリは興奮して言うのでした。

躍進

そうしてピエロ・アンティノリによって販売されたワインは、瞬く間に世界中へと広まり、なんとボルドー評議会より、プルミエ・クリュ参入という名誉ある評価を受けたのです。

それが、サッシカイア。マリオ侯爵の人生が詰まったワインです。

「サッシカイア」とは、小石の多い土地、というような意味ですが、それは彼とクラリスが夢を語り合い、ほれ込んだ農園サン・グイドを象徴する言葉です。ワイン産地としては無名で、ぶどうさえも植わっていなかった、未開拓の土地。そこでひたすら情熱を傾け、夢と人生を詰め込んできた二十数年間でした。

それからというもの、世界のさまざまな舞台で、サッシカイアはその名をとどろかせます。

そして、5大シャトーを含めた国際的なテイスティングの会において。マリオ侯爵の目標は達成されます。サッシカイアは、5大シャトーを押しのけトップに輝き、その実力を不動のものにしたのでした。

元祖スーパータスカン

その前代未聞の大活躍に、困ってしまったのはイタリア政府です。法律ではいちばん下のランクに位置するテーブルワインが、もっとも高品質と法律で保障されたワインよりも高値がついてしまいました。

しかもサッシカイアの成功に続いて、次々に、ボルゲリの土地でワインが作られ、それがまた、高い評価を得ていきます。世界中で、「怪物テーブルワイン」というような意味合いで”スーパータスカン”ともてはやされ、それがあちこちで、規定にはずれてでも俺は俺のうまいワインを作る、という風潮を呼び、国としては統率の取れない状況になったのです。

そうして、1994年。政府は潔く決断します。サッシカイアの使用しているぶどう品種や醸造方法を基準にして、ボルゲリのスーパータスカン達を、なんと法律上2番目の上級ワインに指定したのでした。

今がいちばん

現在、サッシカイアはマリオ侯爵とクラリスの息子、ニコロ・インチーザ・デッラ・ロケッタ侯爵が、あとを継いでいます。彼は父親の夢が、一本のワインに詰められていることを誰より理解していました。父は、未来のことを語りすぎるほど語ります。明日なにをしたいか、どうありたいか。

昔のことはほとんど話しません。サッシカイアを仕上げるまでの苦悩や努力も、もらしたことはありません。ただ、母クラリスから笑い話のように聞いたことがあります。

「最初のワインなんて、渋くて、青臭くて、とても飲めたものじゃなかったのよ。」

いつも、明日を信じて、疑わなかった父。今がいちばんしあわせだと、豪語します。すべては成るべくして、成る。その後ろ姿はいつも、毅然としていた。大きい背中でした。

「でも、あれが、忘れられないのよね。」

クラリスがそう言うのも、息子のニコロ侯爵にはよく分かるのでした。

後年、ボルドーワインと比較されることが多いが?との問いに対して、彼は毅然と言ったそうです。

「サッシカイアはサッシカイアでしかない。」

私見ですが、サッシカイアはシャトー・ムートン・ロートシルトと、そのアイデンティティの成り立ちが、似ているような気がします。ムートンが第二級に格付けされたのに甘んじず、革新を起こしてきた挑戦の歴史と、サッシカイアが無名のワイン産地でイノベーションを起こしてきた情熱の歴史と、その物語にも共通するところがある。

シャトー・ムートン・ロートシルトはいいます。我はムートンなり。

対してサッシカイアは、サッシカイアはサッシカイアでしかない。という。

『溶岩焼とカルツォーネの店HICO』では、飲み比べできるようにグラスで出せたら良いなと思っています。

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