料理とワインについて魚を究める

魚のトマト煮込みを考察2

 

魚のトマト煮込みというシンプルな料理。

レストランで提供するなら、シンプルだからこそ、切り口を変えたり、視点を変えたりして、独自の領域に達しないと価値がありません。

差別化するならどうすればいいか、シミュレーションしています。

前回の記事「魚のトマト煮込みを考察」はこちら。

 

前回は、素材について、考えました。結論は「いつ、どこで捕れた魚か、その魚は何を食べて育ったか」その3つを知ることが独自の一皿に仕上げる為のアプローチとして必要だと結論を出しました。

今回はその、素材へのアプローチです。

アプローチ

料理をする魚について、知った。次に考えるのは、その魚の良い風味を引き立て、良くない風味は削り、相乗的に美味しく感じられるように手を加えること=料理することです。

その為の手法はいくつあるのか?その幅と深さこそ、知識とスキル、経験がものをいう。

科学的に捉えると、人が美味しいと感じるのは「栄養素を摂取できた時の快感」です。美味しさとは何か?については、ずいぶん前に答えを出しました。

栄養素とは、エネルギーとしての炭水化物、身体を構成するためのたんぱく質

このふたつにはしかし、それ自体に味がありません。炭水化物を分解する「」と、たんぱく質を分解する「アミノ酸」に、人が強烈に好む味があります。

そして、人が感じる味の要素は「甘味」「酸味」「渋味」「塩味」「旨味」の5つあって、糖の「甘味」とアミノ酸の「旨み」を軸に他の味わいの要素を足したり、引いたりするのが、料理の基本設計となります。

そこに食感、盛り付け、雰囲気、演出、プロモーションなど、細かなアレンジを施して完成となる。

アミノ酸のパワーバランスを量る

魚自体に糖分はありません。あるのは、たんぱく質を分解するアミノ酸=旨み。

魚の良い風味を引き立てる、というのは、具体的にいえば、いかに魚に含まれる「アミノ酸」を増幅させるか、ということです。旨みというのは、面白くて、ひとつの素材に含まれる旨味だけで味わうよりも、他の素材の持つ旨味を組み合わせた時の方が数倍も強く感じることがわかっています。

魚のトマト煮込みにおいて、トマトを加えるのは、科学的にいえば、魚がもつイノシン酸と、トマトのもつグルタミン酸の掛け合わせであり、旨みの相乗効果を得る為に最高なのです。

そこでプロとして考えるべきは、レシピに頼らず、感覚でその旨みの相乗効果を最大限まで引き出すこと。

科学的に分かっていることは、もっとも相乗効果を発揮するのは、それぞれのアミノ酸量が1対1のとき。つまり、魚のイノシン酸と、トマトのグルタミン酸の量を等しくすること。しかしそれを正確に計るのは現実的に困難ですから、頼りになるのは自分の味覚です。感覚的にここが優れている人は、料理人としての才能があるといえます。

素材を知る意味

素材のところで、魚を知り尽くす必要があるのは、魚に含まれるイノシン酸量を知る為でもあります。

魚にどれだけのイノシン酸が含まれているかを知るには、魚が死んで、たんぱく質が分解される過程を知り、どの時点でイノシン酸がMAXになるかという基礎知識がまた必要になります。これについては、以前、「感動するほど旨い刺身を提供するには?」という記事で書きました。

簡単にいうと、イノシン酸はたんぱく質を分解する時にどんどん増えていきますので、死後、ある程度の時間が経ったものの方がイノシン酸は多く含まれているということになります。だから、新鮮であればあるほど良い、というわけではなく、鮮度よりも、どう扱われたかの方がもっと大事です。詳しくは、「感動するほど旨い刺身を提供するには?」をご覧ください。

 

ということで、素材へのアプローチの出発点はこうなります。

魚のイノシン酸とトマトのグルタミン酸のパワーバランスを量る。

いやあ、料理って、深めると底が見えないくらいですね・・・この話、底が見えるまで、深めてやります。

>>>魚のトマト煮込みを考察3