塔の上で見守るライオンと老将軍
引き続き、シャトー・ラトゥールのストーリーを紹介します。
1855年パリ万博の際、第一級に格付けされた圧倒的な力強さを持つワイン、シャトー・ラトゥール。
舞台はフランス・ボルドー。この地を巡って、フランスとイギリスが熾烈な争いを繰り広げた100年戦争において、ひとりの老将軍が立ち向かった物語。今回は最終章です。
<第一話><第二話>はこちらからどうぞ。
行軍
フランス軍10000人に対し、イギリス軍6000人。
その兵力の差をもろともしない、タルボ将軍率いるイギリス軍はあと少しでフランス軍の陣地、というところまで追い詰めました。フランス軍が退却を始めたと報告が入ったとき、タルボ将軍は連戦連夜の疲れを気遣いながらも、行軍を決意します。
「進め! 勇敢なる兵たちよ!」
突撃を告げるラッパが鳴り響き、タルボ将軍は高らかに声をあげました。
それは7月、ぶどうは実を結び、はやければ色づき始める頃。この戦いが終われば、勝利の美酒をわが兵とともに味わうのだ。そうだ、サン・モンベール塔のワインを心ゆくまで楽しもうではないか。そして証明しよう。約束は果たしたと。
すこしよどんだ空に、ウオーーーッと地響きのごとく男たちの声がうねりを上げて舞いあがります。その圧倒的なまでに勇ましい低音を、幾重にも絡み合って、重なり合って、リズミカルに刻んでいく彼らの地を駆ける音。馬の蹄。むせ返るほどの土ぼこりの中で、タルボ将軍はこの美しい音楽を、女にも聞かせてやりたいと思います。
最期
「勝利はわれわれのものだ!」
ところが、彼らが最終的に目の当たりにしたのは、完全武装した数千人にも及ぶ弓兵と、こちらに向けられた数百の大砲でした。敵が退却したというあの伝令は、正確ではなかったのです。
撤退したように見えたのは、来るべき戦闘の前に陣地を去るように命じられた、商人や売春婦たち、非戦闘員でした。
タルボ将軍ひきいるイギリス軍が不利なのは、誰の目にも明らかでした。彼は驚いたものの、怯むことなく、突撃の合図を出し、自ら進撃したといいます。もちろん、それは無謀でした。矢や大砲の雨を浴び、彼自身も倒れた馬の下敷きになって、最期を遂げます。
事実上、百年戦争が終結した、その瞬間でした。
ライオンと老将軍
こうして、ボルドー地区はふたたびフランス領土となるのですが、タルボ将軍の砦であった、サン・モンベール塔はこの戦いの中で完全に破壊され、当初の塔は現存していません。現在、シャトー・ラトゥールのシンボルとして建っている塔は17世紀ごろに建設されたもので、もとは鳩小屋でした。
ボルドーの中でも最も男っぽくて、骨格のしっかりとした、ラトゥールのワイン。
タルボ将軍が伝えたかった、あの壮大な音楽は、ラトゥールを飲むと今でも感じられます。もっと洗練されて、行進曲から交響曲へと進化したような感がありますが、たたみかけるように迫ってくる力強い香り、エネルギーに満ち溢れていながら、深く、時にしずかに響き渡る余韻は、幾重にも絡み合う音の積み重なりに近い、心地よさがあります。
まさに、ワインのオーケストラ。
ちなみに、ラベルの塔の上には、ライオンが跨っていますが、彼は百年戦争よりこの塔の守り神として君臨する象徴だそうです。遠くまで目を光らせ、力強く、媚びるでもなく、堂々と、むしろ近寄りがたいほどの威圧感で見守るライオンは、勇将タルボ将軍の姿とも重なります。
ラトゥールは、しずかに語ります。
決して饒舌ではありません。タルボ将軍のように、背中で語ります。本当にだいじなものを守るには心に剣をもたなくちゃならない。哲学でもなければ、詩でもない・・・。
La tour
その塔は、現実のあるべき姿を堂々と示してくれる。
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