スポンサーリンク

遊び心

未来予想図Ⅱ~コースの始まり~

投稿日:

2023年の春、HICOを訪れたあるカップルの話 Vol.2

●これまでのあらすじ(Vol.1へ)

2023年の春。

東京オリンピックも終わり、3年が経った頃のこと。

これは、未来のHICOを訪れたあるカップルの話です。

お客様視点で、HICOはどんなレストランになっているか、想像してみました。

1日3組限定という、完全予約制レストランのコースがいよいよ始まります。

********************************************************************************

「ここでは、同じ器は1枚もないんだ」

きれいに面取りされた蕪を食べながら彼が言った。

「どういうこと?」

「既製の器は使ってないんだ。すべて特注か、オーナーの手作り」

「本当?」

「本当だよ。ね」

急に話をふられたサービスの女の子はにこっと笑って頷いた。きれいな仕草をする子だ。年は私と同じくらいか、少し上。

「あの子、品があるよね」

彼女が出た後で、私は言った。

「え?」

「ああいうグラスの持ち方って、普通しないよね」

「ああ、さすが、よく見てるね」

「そりゃ、わたしも料理するもん」

「オーナーはそういうところ、すごく細かいんだ」

彼は、ワイングラスがなぜ何百年も前からあの形状であるか話してくれた。女性が手に持ったとききれいに見えるからだ、なんて知らなかった。彼が関わったオーナーの本に書いてあるらしい。

「私、こんなにワインが美味しいと思ったのはじめて」

「俺も」

料理はどんなストーリーを魅せたいかを考えて作るらしい。前菜やスープや、野菜料理、どれも美味しかった。だけどいちばん面白かったのは、メバルのカルパッチョ。

何も盛られていない、透明な丸い皿が運ばれてきた。これは既製品っぽいけど?と彼を見ると、彼も不思議そうな顔をしていた。

「次の料理にはストーリーがあるんです」

サービスの子がにこっと笑って言った。運ばれてきた皿は、ただの皿ではなく、丸い透明なタブレットだった。

漁船の映像が映し出された。続いて、日焼けした若い漁師さんらしき人の笑顔。海。海底で泳ぐ魚の群れ。岩かげから顔を出すメバル。口をパクパクしている。

テンポよく、画面は変わっていく。

漁師さんの後ろ姿(網を引いている?)。箱に詰められたメバル。暗転。開くとHICOのキッチンになっている。ぴかぴかの包丁で手際よく捌かれ、大きな葉っぱの上にゆっくりとリズミカルに盛られる。

「お待たせしました」

そこで入ってきたオーナー。

「友人の漁師さんから送ってもらったメバルのカルパッチョです」

タブレットの上に置かれると、映像はきらきらと光を反射する海面に変わった。メバルのカルパッチョが笹船に乗っているように見える。

「すごーい」

「すげー」

二人とも声を合わせて感嘆した。

「もう一晩寝かせると旨みが出て食感も柔らかくなるんですが、うちでは鮮度の良さを活かしながら瞬間的に熟成させて、こりこりの歯応えと旨みを両立させました」

彼は目を閉じながら口に入れて、噛みしめた後、みるみる笑顔になって言った。

「めちゃくちゃ旨いです!」

魚が漁師さんの手によって獲られて、運ばれて、料理されて、こうして目の前にあるという当たり前のことに、気がつかない世の中になった。ふだん料理してても工業的に生産された生命感のない素材を使っている気がする。

私は高齢者の施設や自宅に伺って料理や美容のサービスを提供する会社に勤めていた。生活で必要なことはすべてロボットがやってくれる時代だけれど、食事は人の作ったものが良いという高齢者が多い。それでいて、私の作った料理に「味がうすい」とか「ロボットのが美味しい」とか文句を言う人がいた。

メバルのカルパッチョを頂いて、その気持ちがちょっとわかった気がした。きっと、10年前には当たり前だったことを思い出したかったんだ。

「ほんと、おいしい」

白ワインを口に含むと、ふわっとさりげないスパイスの香りがした。

「次はいよいよカルツォーネだよね」

彼も私もうきうきしていた。

>>>未来予想図Ⅱの続きへ

よく読まれている記事

1

世の中の99%の飲食店が「味」で勝負する中、「吸い込むスピード」で勝負した人がいます。 藤田田氏です。 最近、藤田氏の著作を読み返していて、改めてその視点の高さと、数学的根拠から発想した施策の数々に驚 ...

2

生物学から読み解く料理のヒント イカやタコはどのような進化を経て、いまの姿になったのかご存知ですか? 先日読んだ本『ウニはすごいバッタもすごい』(本川達雄著/中公新書) で詳しく知ったのですが、元々は ...

3

白いやつの正体とは? 魚や肉を上手に料理するには、たんぱく質の理解が欠かせません。 たんぱく質をどう料理するのが適切か学んでいる中で、ふと疑問に思うことがありました。 魚を焼いた時に表面に現れる白い塊 ...

4

集客は、アイデア次第。 お金を使って集客はできますが、考えることで、コストを大幅に削減することができます。 かならずしも、広告媒体を使う必要はないのです。 スターバックスの集客アイデアは、他の飲食店で ...

5

科学的に美味しさを考えてみる 以前、美味しさの構造について書きました。 環境が美味しさに及ぼす影響が大きいと、その時に答えを出していますが、もう少し科学的見地から考えるとどうなるのか?人が単純に、口に ...

6

面白い本を読みました。 マーケティングの本ですが、事例が豊富で、セールスのヒントが詰まってます。 ジョセフ・シュガーマン著『シュガーマンのマーケティング30の法則』(フォレスト出版)。 その第一章から ...

-遊び心

Copyright© 東京・高尾のグランピングレストラン かくれんぼ , 2019 All Rights Reserved.