私たちが毎日使っている冷凍庫。
しっかり凍っているように見える肉や魚ですが──本当に「完全に冷凍」されていると思っていませんか?
実は、一般的な家庭用冷凍庫では、肉や魚の70〜80%しか凍っていないことも珍しくありません。
今回は、「冷凍しているのに劣化してしまう理由」と、「食品を守るために知っておきたい温度の話」を掘り下げていきます。
家庭用冷凍庫はマイナス18℃前後が限界
多くの家庭にある冷凍庫の設定温度は、メーカーにもよりますがマイナス18℃前後が一般的です。
しかし、夏場や頻繁な開閉によって温度は不安定になりがちで、マイナス5〜10℃まで上昇していることもあります。
この温度帯は、肉や魚が「凍っているように見えて、実は凍りきっていない」温度です。
パッと見はカチカチでも、内部の水分が完全に凍結していない場合があるのです。
実は「完全に凍る」には、もっと低温が必要
食材に含まれる水分(とくに自由水)は、約0℃〜−5℃でゆっくりと凍り始めます。
ですが、これはあくまで一部。完全に凍結するには、もっと低温が必要です。
以下は、魚や肉の冷凍時における「凍結率」の目安です:
- −30℃:約92%凍結
- −35℃:約94%凍結
- −50℃:約99%凍結
つまり、−30℃未満にならないと、本当の意味で「完全冷凍」とは言えないのです。
一方、家庭用冷凍庫の−18℃では、せいぜい70〜80%程度しか凍っていないという計算に。
これが、保存中に「冷凍焼け」「酸化」「水分蒸発」が起きる根本的な原因です。
冷凍焼けの原因は「凍っていない水分」にあった
冷凍焼けというと、「空気に触れて乾燥した」「ラップが甘かった」などが一般的な説明です。
しかし、それだけでは説明できない現象があります。
冷凍焼けの本質的な原因は、「完全に凍っていない水分が内部に残っていること」。
この未凍結の水分は時間の経過とともに蒸発し、食品内部の組織を崩し、酸化を加速させてしまいます。
とくに脂質の多い食材(牛肉、青魚など)は酸化しやすく、風味の劣化も早いのです。
見た目や味の変化だけでなく、栄養価にも影響が出ることがわかっています。
マグロは−60℃で保存する理由
「マグロは−60℃で冷凍保存する」と聞いたことはありませんか?
これは単なる品質の問題ではなく、生理的な特性に起因します。
マグロの筋肉には「ヘモグロビン」が多く含まれており、これが**酸素と反応して変色(褐変)**してしまうのです。
しかも、常温どころか−20℃程度の冷凍でも酸化はじわじわ進んでしまいます。
そのため、酸化スピードを限界まで遅らせるために−60℃という超低温冷凍が必要になるわけです。
家庭用の冷凍庫ではこの温度に到底及ばず、長期保存には向かない理由がここにあります。
冷凍保存を少しでも美味しく保つための工夫
それでも、家庭用冷凍庫で食材をできるだけ美味しく保つための方法はあります。
● 空気を遮断する(真空パック・ラップ+ジップ袋)
空気が触れることで乾燥・酸化が進むため、空気を極力抜いて保存するのが鉄則。
● 急速冷凍を活用(熱を飛ばしてから冷凍)
調理済みの食材は、しっかり冷ましてから冷凍。急激に冷やすことで氷結晶が小さくなり、組織の破壊を抑えられます。
● 冷凍期間を短くする
あくまで冷凍は“延命措置”。保存期間は1ヶ月以内を目安に。
まとめ:冷凍の「温度差」を知ると見えてくる、保存の本質
「冷凍してるから大丈夫」と思っていた食材も、
実は“凍っているようで凍っていない”のが現実。
冷凍保存の本質は、どれだけ“完全に”水分を凍らせるか、そして酸化を止められるかに尽きます。
そのためには、保存温度と凍結率の関係を知ることが、とても大切。
家庭用冷凍庫にも限界があります。
そのなかで工夫しながら、食材の鮮度と美味しさを守っていく──それが、ちょっとした「冷凍の知恵」なのです。