お金はモノではない、というのは、ご存じですか?実はお金は何の、担保にもよりません。それを理解した時、ちょっと衝撃を受けました。
お金は、国家の信用によって成り立ち、財のやり取りを記録する”データ”だったんです。
お金とは何か?
私は長らく勘違いしていました。元は、物々交換の代替として発達した「モノ」だと思っていたのです。
学生時代、お金の起源をこんな昔話から教わりました。
海幸彦と山幸彦のという兄弟の話です。ご存知で可しょうか?元は古事記に記されている神話です。
兄の海幸彦は魚釣りが上手で、魚を獲って暮らしていた。弟の山幸彦は、狩りが上手で獣を狩って暮らしていた。ある日、弟は、互いの道具を交換することを提案して、兄から借りた釣り針を失くしてしまう……。
という話です。
古事記で語られた海幸彦と山幸彦海のブツブツ交換
その後の物語も面白いのですが、脱線しすぎてしまうので、興味のある方は「海幸彦山幸彦」で調べてみてください。
何が言いたいかというと、貨幣論でいうと、お金の起源は魚と肉の交換だったのではないか、ということ。山幸彦は肉ばかりじゃ飽きるから、たまには魚を食べたいと、肉と交換したんですね。
でもある日、肉と交換しようにも、海幸彦の方では肉を食べたくなくて、交換できなかった。じゃあ、ということで、酒と交換します。今度は、米を食べたくなって、兄の海幸彦のところへ行くと、米はなかった。でも、米屋にもってけば、米屋が欲しがる貝があるから、それと肉を交換した。
というのが、物々交換です。
貨幣はこうして、誕生した?
しかし物々交換では、相手の欲しがるものと自分が欲しいものが必ずしも一致しません。
やがて、誰もが欲しがる米や塩、農具などで代替しますが、そんな重たいものを持って買い物に行くのは大変です。食べ物は保管もできません。そこで中国では、貝殻を用いることになりました。
「財」「貯」「買」「貨」「贈」「賭」などお金にまつわる漢字に「貝」が多いのは、それが理由です。しかし貝は、割れやすく、海に行けば手に入るし、山に住む人にとっては不公平ですね。
そこで次第に、腐らず、壊れにくく、資源に限りのある金や銀が使われるようになりました。
お金は税計算の記録である
物々交換が、お金の起源とする説は、感覚的にとてもわかりやすいものです。しかし実際は、物々交換から貨幣が生まれた事実は、歴史的に皆無だそうです。
貨幣の誕生として、私たちが知れるのは紀元前3500年頃の古代エジプト。神殿や宮殿の官僚たちが、臣下や従属民を労働させたり、必需品を徴収して、財を分配していました。その記録や、臣下同士の財のやり取りを計算するためのものとして貨幣が存在していたのです。
古代エジプトでは、私有財産や市場における交換は存在しませんので、物々交換という概念すらありません。
考えてみれば銀行預金も、ただのデータ
現代において、現金と商品を交換する買い物では確かに物々交換ですが、銀行預金はそうとも言い切れません。銀行から借金をする時のお金の流れは、驚異的です。
ある会社が、設備投資の為に1千万円借りるとします。銀行は、それを自分が所有する現金で貸すのではありません。
なんとなんと、預金通帳に記載するだけ。何もないところから、お金を生み出すことが出来るのです。
なぜお金は通貨として流通しているのか?
もうひとつ、お金に関する疑問。
なぜ、お金は通貨として、流通しているのでしょうか。
お札に関しては、紙です。硬貨にしても原価は100円玉で15円くらいだそう。1万円札の原価は24円。でも、100円玉は100円の価値があり、1万円札は24円ではなく、1万円の価値があります。
不換貨幣
1800年代初頭から第一次世界大戦前までは、貨幣は金と交換することが出来ました。金本位制というのですが、その通貨体制は崩れ、いまは貴金属との交換が保証されていません。貴金属は株と同様、投資対象になっています。
それでもなお、お金として流通するには根拠があります。
皆がそれをお金と認識していること。
中央銀行が発行したその紙を、お金だと思って、信用していること。
だからこそ、お金はお金たりえます。
納税の手段
さらに掘り下げて考えます。
なぜ、皆はそれをお金と認識しているのか?
ただ認識しているから、というのは答えになりません。国が発行しているから?それでもまだ不十分です。
国が発行していても、何か担保するものがなければいけない。最も有力だと思われるのは、納税の手段となることでその価値を担保している。ということ。
日本なら、円という通貨で支払ってください、とすることで皆がお金と認識できるというんです。これは古代エジプトで貨幣が使われていた時の論理と共通します。国が、財のやり取りを記録し、計算するために貨幣を発行するのと同じ理屈なのです。ということは、お金はやはり、モノではなく、ただのデータということができる。
では、どうやって、お金は発生するのでしょうか?
政府がお金を発行するとその記録だけが残る!?
日本では、日本の中央銀行である日本銀行が紙幣を、政府が硬貨を発行できます。
そうするためには、政府がまず国債を発行して、銀行などに買わせて、それをさらに日銀が買取ることで、紙幣が支払われます。日本銀行は、一般国民が口座を持つことはできませんから、市中銀行(私たちが預金を預けている一般の銀行)に支払われるわけですね。
何でそんなに回りくどいことをするかというと、紙幣を発行しすぎないよう制限するためです。
財政支出は、国民を豊かにする
例えば、政府が公共投資をするとします。
その流れを追ってみると、、、、あれ?
驚きました。
政府が国債を発行した、という記録(債務)が残るだけなんです。下の図を見てください。国債発行とお金の流れを、ざっくりとまとめてみました。
政府が発行した小切手1兆円のゆくえ<日本銀行編>
①政府は公共投資をするために、国債を発行します。一方で、企業には、小切手でその代金を渡します。
②小切手を受け取った企業は、銀行へもっていき、預金通帳に振り替えてもらいます。
③銀行は、日本銀行へ小切手を預金に振り替えてもらうように依頼します。
④日本銀行は、日本銀行内にある政府の口座から、銀行の口座に小切手分の預金を振り替えます。
また、政府が発行した国債は、銀行が買い取ります。この時点で、政府が発行した国債と小切手は日本銀行内で相殺されることになります。
政府が発行した小切手のゆくえ<国民消費編>
❶政府は、公共投資を依頼する企業へ小切手で支払います。
❷銀行から預金に振り替えてもらった企業は、それで給料を支払ったり、下請けに仕事を発注したりします。
❸給料として振り込まれた家庭では、食べ物や衣服や車や生活用品など、消費します。
❹企業・個人は数々の税金を政府に納めます。
政府の債務は国民の富=経済成長
もし、私の認識が間違っていたらご指摘ください。
「国債発行とお金の流れ」をまとめてみたら、不思議な事実が浮かび上がります。政府が発行した1兆円。
これは、政府側のお金の流れは、政府が債務として1兆円を記録しただけで銀行も企業も、国民も損していません。むしろ国民はその分、豊かになっていることにお気づきでしょうか?
もう一度、記載します。
消えた1兆円
政府が発行した国債は、銀行が買い取るのですが、その銀行は、政府が発行した小切手を政府から返してもらうので、日銀口座内の預金残高はプラスマイナス0。
政府が1兆円分の国債を発行しても、財政支出を同額おこなえば、消化されてしまうのです。しかもこれはすべて、データとして行われる処理です。現金が発生しているわけではありません。
現金が発生するのは、国民が消費する段階に至って、初めて現金として支払われます。政府が財政支出をすればするほど、国民が潤うということです。
それなのになぜ、政府は財政赤字を出さないように努力するのか。
それどころか、財政収支を黒字にするために、財政を切り詰め、消費税を上げてきます。
赤字は悪。企業にとっては、確かにそうですが、政府に限っては必ずしもそうではありません。政治は、そのバランスを取る責任と権限があります。