『ロールモップヘレン』という料理はご存知ですか?
ホテルオークラで料理長を勤めたこともあるフレンチのシェフから教えてもらいました。「ヘレン」とは、ある魚の欧米での名前です。
その魚は、ニシン。にしんを酢漬けにして、掃除用具のクルクル回るモップのように丸めたお洒落なマリネです。
白ワインのすすむ「ロールモップヘレン」
ニシンのことを「ヘレン」と呼ぶといいましたが、正確にはへリング(Herring)だそうです。
ロールモップヘレンは、3枚卸のフィレに卸してから下処理して、頭側から尾の方へくるくると巻いて楊枝で止め、玉ねぎとフレンチマスタード、甘酢、白ワインでマリネした料理です。北欧で人気があるみたいですよ。にしんは小骨の多い魚ですが、2日ほどなじませると骨は全く気になりません。
ホテルオークラの元料理長から伺ったのですが、当時はオードブルで出していたそうです。「ステーキの付け合わせにも良い」と言っていました。
ロールモップヘレンに合わせるワイン
にしんは、脂質の多い魚でイワシと同様、DHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)がたくさん含まれています。身体には良いのですが、ワインと合わせるときには注意が必要です。
赤ワインに合わせるのは、かなり難易度が高め。ワイン中に含まれる「鉄Ⅱイオン(Fe²⁺)」が、DHAやEPAに触れると、生臭み成分「(E,Z)-2,4-ヘプタジエナール」が瞬時に発生します。
なので、基本的には白ワインがベター。中でも、フレッシュハーブの香りやシトラス系のニュアンスがあって、酸味がきれいな白ワインが良いですね。気候のあたたかい産地よりは冷涼な地域で作られるワイン。やや塩味のある北イタリアのワインや、フランスでしたら、きりっとしたミュスカデなんかは間違いありません。
ニシンの魅力
にしんは、国内だと北海道で水揚げされますが、世界各地で水揚げされる魚です。「二親(にしん)」と漢字で書けるので、縁起が良く、その子「数の子」はおせちにもかかせない食材ですよね。関西ではニシン蕎麦が人気です。
でも、ほとんど北海道でしか水揚げされない魚が、御節や関西の京料理に根付いたのか不思議ではないですか?
実は、江戸時代中期~明治半ばまで北海道と大阪・京都を「北前船」という船が日本海を経てたくさん往来していました。大阪発の船は北海道につくまでに、いろいろな港で売れるものを買い、北海道から大阪へ帰るときは大量の昆布と、身欠きにしんを積んで、戻ったそうです。
身欠きにしんは、ニシンを3枚におろして北海道の寒風でカラカラに干したニシンのこと。にしんそばのニシンは、この身欠きにしんを甘露煮のように甘辛く炊いたものを蕎麦に乗せています。
私が出会った、最高にうまいニシン
函館から車で1時間、北海道噴火湾(内浦湾)にある水産会社で勤めていました。
ここでは冬になると、刺し網漁といって、魚の通り道に網を仕掛け、網の目にひっかかるサイズの魚だけが水揚げされてくるというサスティナブル(持続可能)な漁が伝統的に行われます。狙いは主に、スケソウダラで、冬にたくさんのタラコを作るんです。
最高にうまいニシンはそうした刺し網漁や、一部の定置網漁にかかってきます。この時期のニシンがまた、全身トロといっていいくらい脂乗りが良くて、刺身でも焼いても煮ても、めっぽう旨い。全身の身が白濁として、春先に水揚げされるニシンのピンクがかった色とは全く違うんですよ。
そのニシンで一度、ロールモップヘレンを作ったことがあります。
超肉厚、滋味あふれるロールモップヘレン
ニシンを3枚におろし、重量の15%くらいの多めの塩で1時間。白ワインヴィネガーで軽く塩を洗い流し、水分を拭いたら、頭側から尾の方へくるくると巻いて楊枝で止め、玉ねぎとフレンチマスタード、甘酢、白ワインでマリネ。2日おいて完成です。