魚を焼くと出る“白いやつ”の正体とは?料理が上手くなる科学の話

魚を焼いていると、ふと気になる瞬間があります。
ジュウジュウと焼ける音とともに、表面ににじみ出てくる白い液体や泡のようなもの──。

「あれって、何なんだろう?」
「なんとなく見栄えが悪いし、出るときと出ないときがあるのはなぜ?」

最初はそんな小さな疑問でした。
けれど調べてみると、そこには料理の腕前をぐっと上げてくれるちょっとした科学の話が隠れていたのです。

実はこの“白いやつ”、ただの見た目の問題ではありません。
その正体を知り、原因を理解し、対処法を学ぶことで、魚をもっと美味しく、見た目も美しく焼くことができるようになります。

今日は、焼き魚の奥にある「科学のひとさじ」を、わかりやすくご紹介します。
読んだあと、きっとあなたは魚を焼くのが少し楽しくなるはずです。

目次

白いやつの正体はアルブミンというたんぱく質

白いやつの正体はアルブミンというたんぱく質

魚を焼いたときに、表面からにじみ出てくる白い液体や塊。とくに、鮭を焼いたときなどに目立ちますよね。
見た目はやや不格好だけど、体に害はない──とは聞くけれど、いったい何なのか。

その正体は、アルブミン(albumin)と呼ばれる水溶性のたんぱく質です。

もしかすると、この名前をどこかで聞いたことがある方もいるかもしれません。
実はこのアルブミン、人間の体にも含まれています。血液中のたんぱく質の中で、もっとも多くを占めるのがアルブミン。肝臓で作られ、血漿(けっしょう)という成分の中に溶け込んで、体のさまざまな部位へと運ばれています。

さらに、卵白の主要なたんぱく質もアルブミン。
目玉焼きにすると、透明だった白身が白く固まりますよね?
あれも、アルブミンが加熱によって構造変化(変性)し、凝固した結果なのです。

つまり、魚を焼いたときににじみ出る白いやつも、卵の白身と同じように「たんぱく質が固まった姿」。
とくに鮭のように、筋肉にアルブミンを多く含む魚では顕著に現れます。

このアルブミンは、無害です。
美意識の高い料理人であれば取り除くかもしれませんが、味にも健康にも悪影響はありません。
ただ──料理は見た目も大事。白いやつが出ると「ちょっと残念」に感じてしまうのも、正直なところ。

なぜ白いやつが出る?特に冷凍魚に多い理由

なぜ白いやつが出る?特に冷凍魚に多い理由

魚を焼くたびに、毎回白いやつが出るわけではありません。
「冷凍の魚でよく見る気がするな…」と思ったこと、ありませんか?
それには、ちゃんと理由があります。

まず、アルブミンは水溶性のたんぱく質で、約65℃を超えると凝固をはじめます。
つまり、魚の表面温度が65℃以上になると、にじみ出ていたアルブミンが固まり、白く変化して目立つようになるわけです。

では、なぜ冷凍魚だと出やすいのか?

理由のひとつは、表面と中心の温度差です。

冷凍した魚を十分に解凍せずに焼くと、表面は早く加熱されて温度が急上昇するのに対し、中心部はまだ冷たいままという状態になりがち。このとき、魚の身に含まれる水分とたんぱく質(アルブミン)は、加熱によって内部から外へと押し出されていきます。

さらに、魚の筋肉にある「筋線維(すじせんい)」が熱で収縮すると、
それが押し出しの圧力を強め、結果的にアルブミンが表面へとにじみ出る量も増えてしまうんです。

しかも、冷凍→解凍の過程でうまく扱わなかった場合、ドリップ(水分の流出)が多くなり、
細胞が壊れてタンパク質が外へ出やすくなる、というのも白いやつを助長する要因のひとつです。

つまり──

  • 解凍が不十分で中心と表面の加熱に差が出る
  • ドリップによりたんぱく質が流出しやすくなる
  • 筋肉の収縮で押し出される
  • 表面温度が65℃を超えて凝固する

この流れで、“あの白いやつ”が浮かび上がってくるのです。

ですが、原因がわかれば対処もできる。
次のセクションでは、「白いやつをできるだけ出さない」ための、実践的な2つの方法をご紹介しますね。

見た目を良くしたいなら?出にくくする2つのテクニック

見た目を良くしたいなら?出にくくする2つのテクニック

白いやつ(アルブミン)は無害とはいえ、やはり見た目の印象は大きな差を生みます。
特に、おもてなしの一皿や、お弁当に入れる焼き魚であれば、できることなら出てきてほしくないですよね。

では、どうすれば“白いやつ”を減らすことができるのか?
料理のプロたちも使っている、2つのテクニックをご紹介します。

テクニック①:「ブライニング」でアルブミンを事前に溶かす

まず1つ目は、「ブライニング(塩水漬け)」という下処理法。

アルブミンは水に溶ける性質(=可溶性たんぱく質)を持っています。
つまり、あらかじめ水に溶かしておけば、焼いたときに出てこないのです。

ただし、ここに注意点がひとつ。
真水に漬けると、浸透圧の関係で魚が水分を吸ってしまい、旨みまで逃げてしまうんです。

そこで使うのが「塩水」。
塩の力で浸透圧のバランスをとりつつ、アルブミンだけをじんわりと溶かし出すのがブライニングの狙いです。

【基本のブライニング方法】

  • 水1カップ(200ml)に対し塩10〜20g(5〜10%濃度)
  • 魚の切り身を20分ほど漬ける
  • その後、軽く水気を拭き取ってから焼く

この方法は、焼き魚の見た目改善だけでなく、身をふっくらさせ、塩味も均一に入るという副次効果もあります。
一夜干しをつくる「立て塩」にも似た、理にかなった伝統的な技術ですね。

テクニック②:「低温調理」で表面温度を上げすぎない

もうひとつの方法は、「焼き方そのものを変える」というアプローチ。
アルブミンは約65℃を超えると固まるため、できるだけ表面の温度を抑えることで、白いやつの発生を防げます。

たとえば──

  • 弱火でじっくり火入れする
  • 途中でアルミホイルをかぶせて加熱を穏やかにする
  • 焼く前にしっかり室温に戻しておく

こうした細かな配慮を加えるだけでも、温度差による“押し出し”は緩和され、アルブミンの流出が減ります。

さらに本格的にやるなら、真空パック+60℃の湯煎(低温調理)という方法もあります。
最近では家庭用のIT調理器(低温調理器)も手頃な価格で手に入るので、挑戦してみるのもおすすめです。


ブライニングと低温調理。
この2つのテクニックは、料理の見た目を整えるだけでなく、食感・風味もワンランク上げてくれる優れもの。
「ちょっと料理上手に見られたい」そんなときに、ぜひ取り入れてみてください。

魚の生臭さを抑えるには?プロが使うシンプルな工夫

魚の生臭さを抑えるには?プロが使うシンプルな工夫

ちなみに、おまけの知識ですが…

「白いやつ」と並んで、魚料理でもうひとつ悩ましいのが──生臭さ
焼き上がりがどれだけふっくらしていても、ひと口目で「ん…ちょっと臭うな」と感じてしまえば、それだけで満足度は下がってしまいます。

この魚のにおいにも、科学的な理由と対処法がしっかりあります。
ここでは、料理人や魚屋さんも取り入れている簡単で効果的な対策をご紹介しましょう。

生臭さの犯人は「トリメチルアミン」

魚の生臭さの主な原因物質、それがトリメチルアミン(TMA)という揮発性の化合物です。

このトリメチルアミンは、もともと魚の筋肉に多く含まれる**トリメチルアミンオキシド(TMAO)**が分解されて発生します。
とくに、イワシやサバなどの青魚、マグロやカツオといった赤身の魚に多く含まれており、海の魚特有のにおいの正体でもあります。

さらに、酸化した脂肪分も生臭さの一因となるため、脂の多い魚ほど臭いが立ちやすい傾向にあるのです。

対策①:「血と粘膜をしっかり洗い流す」

生臭さは、魚の血合いや内臓まわりの膜に集中して存在しています。
そのため、調理前に包丁や指でこそげ取り、水でしっかり洗い流すだけで、においはぐっと抑えられます。

中でも効果的なのは、骨の周囲に残った血のかたまりや腹膜。
意外と見逃しやすい部分ですが、ここを丁寧に処理するだけで「臭みの抜けた仕上がり」になります。

対策②:「霜降り」でたんぱく質を表面から処理する

もうひとつは、魚の表面を熱湯にくぐらせてから冷水でしめる「霜降り」処理

これにより、

  • 血液や脂肪を表面から浮き出させる
  • トリメチルアミンのもとになるたんぱく質を凝固させて落とす
  • 同時に脂の酸化も抑える

といった効果が得られます。

和食の現場ではおなじみの処理ですが、家庭でも手軽にできます。
魚の切り身に熱湯をさっとかけて、表面の色が変わったらすぐ冷水に落とすだけ。
このひと手間で、生臭さがぐっと減り、味にキレが生まれます。


「白いやつ」を抑える工夫とあわせて、ぜひこの“臭み取りのひと手間”も取り入れてみてください。
魚の美味しさが一段と際立ち、食卓がちょっと贅沢な気分になりますよ。

おさらい:白いやつの正体と、その対処法

白いやつの正体と、その対処法

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
焼き魚に現れる“あの白いやつ”──改めて、その正体と向き合ってみましょう。

白い塊の正体は、「アルブミン」。
人の体にも含まれる水溶性たんぱく質の一種で、焼いた魚の表面に出てくるのは自然な現象です。

とはいえ、無害とはいえ、あのビジュアルは気になります。
見た目も美味しさのうち──そう思うなら、次のような工夫を取り入れてみてください。

アルブミンが出るメカニズム

  • 魚の身が加熱で収縮 → アルブミンが押し出される
  • 表面が65℃を超える → アルブミンが凝固して白くなる
  • 冷凍魚は中心と表面の温度差が大きく、特に出やすい

“白いやつ”が出にくくなる2つのテクニック

塩水で下処理(ブライニング)
 5〜10%の塩水に20分ほど漬け、余分なアルブミンを溶かしておく。

低温でじっくり火を入れる
 表面温度が急上昇しないよう、弱火で加熱。または60℃湯煎での低温調理。

美味しい魚料理は、味はもちろん、見た目と香りも大切です。
少しだけ科学の視点を持つことで、いつもの一皿が“ちょっと自慢できる料理”に変わる
そんな発見が、日々の料理をもっと楽しくしてくれます。

さて、今夜の献立に焼き魚はいかがですか?

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