遊び心

サッシカイア|夢と情熱①

惚れこんだ場所で、夢を見る

5大シャトー物語の番外編としまして、5大シャトーに挑んだワインの物語を紹介したいと思います。

今やイタリアワインの大御所となった感のある、サッシカイア。このワインは、ある男が、まったく何もないところから底なしの情熱で夢を追い続け、名を馳せました。

5大シャトーのひとつともどこか似た雰囲気があるのは、この情熱ゆえだと思うのですが、どうでしょうか・・・?

パズルのピース

人は、生きているうちに何度か、運命的な出会いを経験するといいます。

一見、なんの関連性もなく、脈絡なく、散りばめられたパズルのピースが、ひとつひとつぴったりと重なっていくように、それまでに巡り合ってきた一切の出来事が、そのためにあったのだと思える瞬間。

マリオ・インチーザ・デッラ・ロケッタ侯爵が、彼女に出会ったのは、イタリア・トスカーナ州にある、ボルゲリという田舎町でした。昔からある農園が広がり、海に近いので、小高い丘に立てば、ここちよい風を受けながら、きっと何世紀も変わっていないだろう風景を、一望できます。彼女はこの地方に何百年も前から名を馳せる名家の娘で、名前をクラリスといいました。

マリオ侯爵は、クラリスの瞳のおくをじっと見つめて、言います。

「昔から知っているような気がするんだ。」

マリオ侯爵の夢

来る日も来る日も、二人はボルゲリののどかな田園風景の中を歩きながら、いろいろな話をしました。どんな環境で育ち、どんな暮らしをして、誰を愛して、失って、生きてきたのか。会話を重ねる度に、それまで積み重ねてきた30年近い年月の出来事は、喜びも悲しみもすべて彼女に会うためのものだったのだと、彼には思われます。

ボルドーワインを愛してやまないのだと話した時には、心はもう決まっていました。ボルゲリの土地は、その気候風土がボルドーによく似ていたのです。クラリスに出会ったのと同様、これは、偶然ではない。

マリオ侯爵は、イタリアワインは野蛮すぎる、と感じていました。薄っぺらい果実味に、過度な酸味。それに比べ、フランス・ボルドーには華やかで、洗練された、力強いワインがおおく存在する。特に一級シャトーの揺るぎないその個性は、彼をすっかり虜にしていたのです。ラフィットの華やかさ、マルゴーの繊細さ、ラトゥールの力強さ、オー・ブリオンのバランス感覚。(ちなみにこの時はまだ、ムートンは一級に昇格していません。)

いつしか彼の胸には、自らの手で、一級シャトーを超えるほどのワインを作りたいという思いが、芽生えていました。

「いま決めたよ、クラリス。君と出会ってはじめて私は自分の本当にしたいことがわかった。いや、ずっと、胸にはあったのだ。それが夢だと気づいたのは、君のおかげだ。」

惚れこんだ農園

二人がよく散歩したのは、サン・グイドという農園です。

海からのあたたかい風が木々をゆらし、畑はゆるやかな傾斜で、日差しがやさしくあたる。とても小石の多い土地で、クラリスは時折つまずきそうになりましたが、その手はいつも、マリオ侯爵が支えていました。彼はそこで感じる、風や、日差しや、その手のぬくもりを、愛したのです。

「ここで、ワインを作りたい。必ずボルドーの一級シャトーにも負けないものを作ってみせる。クラリス、それを一緒に飲んでくれないか?」

それが、彼なりのプロポーズでした。彼女は、その夢の先を私にも見せてほしいと、にっこり微笑みます。

>>>サッシカイア物語<第二話>へ

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