魚を究める

冷凍によるタンパク質の変性とエマルションの破壊

あるとき、冷凍した筋子から作るイクラ醤油漬けが、やや白くなっていることに気づきました。

よく観察してみると、いくらの目玉部分の周辺が白濁しています。

調べてみると、ある面白い仮説へとたどり着きました。

イクラの構造

イクラの構造というのは、大きく3階層に分かれています。

卵膜、卵黄、油摘(油球)

いくらの目玉は油滴といわれる部分で、それ以外のオレンジ部分が卵黄です。

いくらの目玉(油滴)の役割と機能

油滴の役割は、卵の浮力調整と卵黄に足りない栄養補助成分の備蓄

主に高カロリーの栄養物質を蓄えています。

鮭が孵化してから捕食できるようになる迄の間の栄養分として、腹に蓄積されてるらしいですね。

面白いのは浮力調整機能で、水の中では油滴部分が上を向くようになっています。

冷凍筋子から作ったら白くなる!?

まず検証から入りました。

以下、3通りのテストをします。

  1. 冷凍筋子を塩水洗いして、いくら醤油漬けに。
  2. 冷凍筋子を真水で洗って、いくら醤油漬けに。
  3. 冷凍していない生の筋子を塩水洗いして、いくら醤油漬けに。

白くなるのは、冷凍によりタンパク質が変性するからなのか、それとも下処理の工程で真水を使うのは良くないのか

いずれかだろうと考えてました。

たんぱく質の変性とは、たとえば魚を加熱すると白くなりますが、それも変性のひとつです。

下処理の工程で真水を使わない方が良いかもしれない、と考えたのは、浸透圧でイクラが水を吸い込みやすくなるからです。

塩水で洗うか、真水で洗うか?

筋子の下処理~洗浄の仕方を検索すると、お湯を使う人、塩水を使う人、水道水を流しながらする人、それぞれやり方があるようです。

ベストな方法は何なのか?

必ずあるはずですが、意外と根拠を持って下処理をしている人はいません。

さっそく、3通りのテストをしてみました。

ポイントは、塩水で洗うのか、真水で洗うのか?



塩水で洗う

38度前後のぬるま湯に濃度1%分の塩を加え、筋子をばらします。

ばらせたら、濃度1%の塩水での中で血の筋や潰れた皮などを除きながら、5~6回、塩水を変え洗浄。

真水で洗う

38度のぬるま湯の中で、筋子をばらし、水を5~6回変えながら、洗浄。

下の写真は、それぞれの洗浄直後の画像です。

塩水洗い後のイクラ
真水洗い後のイクラ

いずれの洗浄でも、洗浄後は卵膜全体が白っぽくなりました。

個体差はあるようです。

これは、冷凍の筋子から作ろうが、生の筋子から作ろうが変わりません。

5分後
洗浄して5分後のいくら洗浄して5分後のいくら

やや淡いオレンジ。

いずれも、5分後には白っぽさは消えます。

15分後

15分後から、状況は変わります。

冷凍筋子から作ったイクラには、白濁が見られるようになる。

塩水洗い後のイクラしょうゆ漬け塩水洗い後のイクラしょうゆ漬け
水洗い後のイクラしょうゆ漬け水洗い後のイクラしょうゆ漬け

生の筋子から作ったイクラ醤油漬けは、こういった現象は認められません。

20時間後

20時間後には、冷凍筋子を真水で洗ったイクラしょうゆ漬けにはよりはっきりと白濁が認められました。

塩水で洗ったものもやや白濁してますが、真水で洗ったものよりもひどくありません。

生の筋子から作ったイクラ醤油漬けは、全く白濁していない。

水洗いイクラしょうゆ漬け20時間後水洗いイクラしょうゆ漬け20時間後
生筋子から作ったイクラしょうゆ漬け20時間後

冷凍筋子から作ったイクラ醤油漬けをよく観察すると、いくらの目玉(油滴)周辺の白濁には、粒ごとにムラがあります。

白濁した中にラー油をたらしたような赤い油滴が大小さまざま確認できました。

ただ、灯りによって見え方が違い、蛍光灯の下でよく観察すると白さは際立つし、暖色系の灯りだとほとんど気になりません。

白いまな板を背景に粒を並べると白濁してることもほとんどわからない。

しかし、冷凍筋子から作ったイクラは程度の差こそあれ白濁が認められましたが、生から作ったイクラには全く認められませんでした。



味、食感、歯ざわり

味や、食感はどうか?

洗い方により、変化はあるのか?

官能検査となりますが、下処理、洗浄の仕方により、そこには明らかな差が見られました。

水道水で洗浄したイクラは、塩水で洗浄したものより若干、皮が固いよう感じます。

印象では、塩水で洗浄したものには噛んだ瞬間にプチッとはじける感じ

水道水の方は、それよりはややグニュッとしたゴムっぽい感じになる。

味わいも、塩水で洗浄したものの方がいくらの味がより濃厚に感じます。

食べ比べると、水道水で洗浄した方は風味が弱くなっている。

味、食感の点で、筋子は塩水で洗う方が美味しくできるということが分かりました。

なぜ、冷凍筋子から作ったイクラ醤油漬けは白くなったのか?

冷凍筋子から作るイクラしょうゆ漬けはなぜ白くなったのか?

白濁したのは、タンパク質が主成分である卵黄や卵膜ではなく、目玉(油滴)周辺であることから、冷凍によるタンパク質の変性ではないかもしれません。

筋子の解凍時、目視では、凍結前と変わらない外観でした。

洗浄後は卵膜が白くなるが、油滴は白濁化していません。

ところが醤油につけると、目玉周辺は次第に白濁化する。

塩水で洗おうが、真水で洗おうが、15分でそれが確認できました。

凍結していない生の筋子から醤油漬けを作ると、油滴周辺の白濁化は一切、認められない。

ということは、凍結したことによる何らかの変化が、影響を及ぼしているのでは?と考えられます。

エマルションの破壊、あるいは不安定化?

油滴(目玉)の構造は、調べても出てきませんでした。

魚卵の油滴の研究はあまり進んでいないようです。

ただ、油滴の役割が「卵の浮力調整と卵黄に足りない栄養補助成分を蓄えている」ということから、油滴といっても100%油分ではないと思われます。

であれば、凍結~解凍することで、エマルション(乳化液)が融解、あるいは不安定化した可能性も考えられる

たとえば、マヨネーズのようなエマルション食品は冷凍~解凍することで、油分と水分が分離します。

油脂結晶が油滴から飛び出すことで、隣接する油滴間を架橋する<部分合一>により生じるといわれているんです。

ただ、エマルションの破壊・不安定化にそれぞれどのように関わっているか?詳細は研究が進んでおらず未だ不明。

しかし解凍時の筋子の観察では、エマルションの破壊・不安定化など目視では分かりません。

解凍後の筋子解凍後の筋子
仮説

洗浄時、潰れた筋子を水につけると白濁する事が分かります。

それが水道水でも塩水でも同様でした。

白濁するのは、イクラの中のタンパク質が水に溶解するときに、水に溶けない不溶性タンパク質が析出するからです。

これは確か。

白濁する部位が、卵膜でも卵黄でもなく、目玉(油滴)、あるいはその周辺であることことから、冷凍~解凍することによりエマルションの破壊・不安定化が起こり、醤油などの水溶液を吸い込んで水分が入り込んだ時に不溶性タンパク質が白濁化する、ということは考えられないだろうか?

先ほど、説明したように、冷凍していない生の筋子から同様の製法で醤油漬けを作ったところ、白濁は全く確認できませんでした。

冷凍~解凍して作ったイクラ醤油漬けと、冷凍していない生筋子から作ったイクラしょうゆ漬けと見比べてみると、冷凍~解凍して作ったイクラ醤油漬けは、オレンジの油滴の大小、バランスがやや不安定なように見受けられます。

左:冷凍筋子から作ったイクラしょうゆ漬け。右:生の筋子から作ったイクラしょうゆ漬け。左:冷凍筋子から作ったイクラしょうゆ漬け。右:生の筋子から作ったイクラしょうゆ漬け。

まとめ

現段階で絶対とは言い切れませんが、冷凍~解凍により、イクラの油滴周辺でエマルションの破壊、あるいは不安定化が起こり、醤油などの水溶液が入り込んだ時、不溶性タンパク質が白濁したのではないかと考えらます。

ある研究者に意見を求めたところ「可能性は高いかもしれないね」とのことでした。

しかし、実は、非常にひっかかることがあるのです。

過去に、冷凍の洗いイクラから製造しても、白くはならなかった記憶が鮮明にあります。

だから今回の仮説は、全く間違っている可能性もある。

興味は尽きませんね・・・。

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HICO
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ほんの小さな感動が、誰かの人生をちょっと変える。そんな食体験を通して人類に貢献することが僕の使命です。目標は「100年レストラン事業」。お金も才能も人脈もありませんが、実現させるために日々、愚直に考えていることを綴ってます。
人生のアフターコロナ対策、お決まりですか?

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