『天皇の料理番』で学んだ大切な、大切な心構え

胸に突き刺さって、抜けない言葉があります。正確には、どんな言葉だったのか、一字一句、わかりません。でもそれは、その言葉の真意は、深い感動と共に絶対に忘れちゃいけない、と思わせるものがありました。

『天皇の料理番』というテレビドラマの中でのセリフです。Amazon primeで見る事ができたので、そのシーンを繰り返し見ました。

目次

良い仕事とは

『天皇の料理番』は、何をやっても続かず、クズ扱いされてきた主人公が、料理に出会い、「日本一のコックになる」夢を、周りの人たちに助けられながら実現していくストーリーです。後半は、天皇の料理番となり夢を実現した彼が、国のために激動の昭和の戦乱期を生き抜く話で、実に見ごたえがあります。

特に奥さんの生き方には、涙しました……。レストランに限らず、サービス業に従事するすべての方に見てほしいと思うくらいです。

忘れえぬシーン

さて、その忘れえぬシーンは、料理を早く覚えて一人前になりたいのに皿洗いばかりさせられて焦る主人公が、シェフのレシピを盗んだときのこと。彼はそのレシピを見て、それがどんなに大事なものなのかわかります。

シェフにどうやって返そうか、右往左往している中、ついに返すチャンスがきました。クビを覚悟した主人公に、シェフは言うのです。なぜ、料理を教えないのか、その真意を。

小さな失敗が、大きな失敗になることもある。

そういうのは真心がない。料理は「まごころ」だ。

技術は追い付かないこともある。

素材は望み通りにいかないこともある。

でも、「まごころ」はてめえ次第でいつでも最高のものを出すことが出来る。

爪を短くすること。

鍋を丁寧に洗うこと。

包丁を整えること。

そういうことは、確実にできる。それさえできないやつは、まともな料理が作れるとは俺は思わない。

教えないのは、覚えないからだ。

親切に教えてもらったものより、てめえで必死になって盗んだものの方が人は大事にする。

だから、教えない。

最高のパフォーマンスを発揮する為に、準備は欠かせません。それは、様々な書物でも語られてきたことです。

でも、その理由を、ここまで深く落とし込むには、時期と、相性の良い言葉が必要です。私にとっては、このセリフがそうでした。

親切に教えることの罪

ドラマと今では、時代が違います。料理人の地位は低く、ろくでもない人が就く職業だと思われていました。そして、暴力など当たり前の、極めて封建的な世界です。

現代は「教えない」ことは効率が悪く、教えなければ、若い人は育たないでしょう。当時は、腕一本で食べていくために、料理人はとにかく必死だった。親切になんて、誰も教えてもえなかったようです。

ただ、考えてみると、すぐに教えてくれることに対して、人は簡単にとらえてしまいます。教えてくれたこと以上のことを考えません。

セリフにあるように、大事にしないのかもしれない。

包丁を見ると、仕事ができるかわかる

包丁には、料理人の魂が宿ります。私は、レストラン時代を経て、水産会社に勤めました。特には数百本の魚を1日で捌いたこともあります。水産工場であれば、機械で10倍の生産性にすることもできますが、代表は包丁で捌くことにこだわりました。

包丁で卸す方が切り口がなめらかで、個体差のある魚の形状に応じた処理ができるし、必要以上に水を使わないので、品質が良いからです。そして何より、包丁を大事にすることが、人の生き方につながると考えていました。

包丁を整える。

というのは、簡単です。でも、用途に応じた様々な包丁を、その目的によってどう研ぐかを考えるのは、底が見えないくらい深い。

出刃包丁は、魚の太い骨を断つために重く、厚みのある刃をもちます。とはいえ、切っ先と刃元ととは役割が違って、切っ先の方は魚の身をおろすためにシャープな設計になっているのです。それを理解した上で、捌く魚の種類に適した研ぎ方が求められます。

だから、水産会社の代表はいつも言っていました。

包丁を見ると、仕事ができるかわかる。と。

目次