パスタはなぜ沸騰した湯で茹でるのか?美味しく作る3つのルール

「なぜ、パスタって、沸騰した湯でゆでるんですか?」「なぜ、茹でるときは塩をたっぷり入れるんですか?」「ソースの塩分の目安はどのくらいにすれば良いですか?」

など、パスタの作り方を聞かれることがあります。ということで、私が考える「美味しいパスタづくりのポイント」をまとめました。

目次

パスタを美味しく料理する第一のポイント

私の考えですが、パスタというのは、茹で方で8割決まります。作る料理にもよりますが、残りの2割がソースとの和え方。

はじめは、逆だと思っていました。

茹でるのは誰でも出来る。フライパンを振って、ソースと手早く合わせる方が難しいし、そこで決まると。でも、茹でる方に思考を入れていくと、ソースとの和え方よりも、奥が深いんですね。

ソースと和える時に大事なのは、「乳化」です。乳化とは、水と油をなじませることと理解すると良いと思います。これは、簡単ではないのですが、練習すれば誰にでもできます。

でも、茹で方には考える余地がたくさんあり、どこに独自の思考を入れる事が出来る。

美味しいパスタ料理の原則

パスタを美味しく作ろうと思ったとき欠かせない第一のポイントも、この茹で方にあります。

どの料理本を読んでも、沸騰したお湯に入れる事、と書いています。それはなぜか?結論から言うと、歯ごたえを残す為です。

いわゆるアルデンテ(Al dente)に仕上げる為。アルデンテはイタリア語で「歯ごたえのある」という意味です。

この状態を定義すると、麺の表面は柔らかく、中心はまだ硬さの残っている状態。これが、美味しいパスタ料理の原則になります。

では、なぜ、沸騰したお湯が必要条件なのか?

パスタを茹でる目的

パスタを茹でる目的は、パスタのデンプンをアルファ化すること。

アルファ化は言いかえれば糊化(こか)という現象で、固く結合したデンプンを、水と熱によって、柔らかく、人体が消化吸収しやすい状態にするのです。パスタの場合、アルファ化が急速に起こる温度が85~95度。沸騰したお湯が必要条件であるのは、これが理由です。

アルデンテの状態に仕上げる為には、この温度帯で茹でないと、麺の表面部分と中心に差が出ません。仮に、沸騰が不十分なお湯(85度以下)で茹でると、アルファ化するまでに時間がかかりすぎ、伸びきってしまうのです。

ゆで時間が長くなるほどに、パスタの表面から中心部に向かって水分が移動するので、中心部の水分量は多くなります。パスタを入れると温度が下がるので、ボコボコと泡が上がるくらいしっかりと沸かすこと、湯の中で踊れるように、たっぷりの湯で茹でることが重要になってきます。

以上が、パスタの茹で方の基礎ですが、ここに思考を入れる事が可能で、そこが独自性につながると考えています。

パスタを美味しく茹でる3つのルール

では、ここで、パスタを美味しく茹でるための3つのルールをまとめてみましょう。ご存じの方も多いかもしれませんが、ご参考まで。

1.塩を入れる

先ほど、ご説明したように、パスタを茹でるのに塩は欠かせません。通常、湯の量に対して1%が目安です。ただ、茹でるパスタによっては、もう少し多くしたり、逆に少なくしたりすることがあります。

塩を入れる目的は、パスタに塩味をつけることだからです。

塩を入れずに茹でたパスタは水っぽく感じ、ソースとあえても別々にものを食べている感じがします。パスタとソースがばらばらで一体感がありません。

2.かき混ぜない

パスタを沸騰したお湯にいれたら、パスタ同士がくっつかないよう最初だけ軽くかき混ぜますが、その後はかき混ぜないようにします。理由は、パスタの表面がダメージを受け、ソースとの絡みが悪くなるからです。

電子顕微鏡で、茹でたパスタを見ると、かき混ぜたパスタは表面がめくれ上がっていたり、削れたりしています。

一方、かき混ぜていない方は、組織が一方向に揃っていてなめらかです。ソースと合わせると均一に絡まり、口当たりがつるっとします。

3.たっぷりの湯で茹でる

パスタ同士がかき混ぜることなく、くっつかないようにするためには、湯の中で踊らせる必要があります。それには、少ない湯では出来ません。たっぷりの湯で茹でないと、湯の中で踊らないのです。また、パスタを入れると温度が下がるので、それを防ぐ目的もあります。

ただ、厳密にいうと、パスタを入れて軽くほぐした後、再びボコボコと沸騰する前にやや火を弱めて、静かに沸騰させるくらいで茹でるのがベストです。

2番目のポイントで述べたように、沸騰してボコボコと勢いがよすぎると、パスタの表面が削られてしまうためです。

パスタの茹で方に独自の思考を入れる

茹で方にこそ工夫の余地がある

料理として独自の一皿をお出ししようと思えば、ソースの工夫よりもむしろ、茹で方に思考を入れられるのではないか、と考えました。

茹でる、という料理工程は基本的なルールを踏まえれば、美味しいパスタの原則「アルデンテ」(イタリア語で歯ごたえがあるという意味)に仕上げることはそう難しくありません。

そして、ソースと和えて、フライパンをよく振って乳化させ、料理としての一体感を持たせれば、たいがい美味しいパスタは作れます。ソースはそのバリエーションに限界はないほど多様ですが、独自性という視点で見ると、茹で方にこそ工夫の余地があると思えるのです。

パスタを茹でる工程を基本に沿いながら、工夫

パスタを茹でる工程でやりたいことは、パスタのデンプンをアルファ化し、パスタの表面は柔らかく、中心は硬く歯応えを残しながら、塩味をつけることといえます。その為の条件は、全体量に対し1%前後の塩分があること沸騰した湯で茹でることが大事なのですが、逆にいえばその条件を満たせれば、美味しく仕上がるわけです。

独自の思考を入れられる、工夫の余地がある、というのはそこです。

たとえば、シンプルなトマトソースを作る場合、チキンブイヨンで茹でたらどうか?チキンブイヨンには、イノシン酸という旨み成分が溶け出しています。一方、トマトソースには、グルタミン酸という旨み成分がある。うま味成分には、旨みの相乗効果といって、イノシン酸とグルタミン酸と合わさると、旨みは1+1=2ではなく、それ以上に感じるのです。

実際、普通に茹でた場合と、チキンブイヨンで茹でた場合、味が深まるのは後者です。コストも手間もかかりますから、そこまでする人は少ないですが、ただのトマトソースでも違いを出そうと思う時、こうした工夫はより料理を深くします。

人が手をかけないところに手をかける

茹で方に独自の思考を入れるということは、レストランのオペレーション上、なかなかやりづらいところです。1%前後の湯で茹でるなら、それひとつあれば様々なパスタを作れますが、トマトソースにはチキンブイヨン、ペスカトーレにはフュメ・ド・ポワソン(魚貝出汁)、カルボナーラにはフォン・ブラン(仔牛出汁)など料理ごとに変えていては、大変です。一般的なイタリア料理店では、手をかけられません。

逆に言えば、手をかけることができれば、それだけで差別化できます。

パスタソースの塩分量について

もうひとつ、仕上がりに差が出るのは、パスタソースの塩分量と、ゆで汁の塩分量の差です。どちらの塩分を強くした方が味が決まると思いますか?多くの料理人は、ソースの方で味を決めてしまいます。

パスタ料理というのは、ソースを作って、パスタを合わせる工程なので、そうしたくなるのは分かりますが、実はパスタ自体の塩分を強めにした方が味が決まるのです。

ですから、ソースの方はじゃっかん控えめにした方が良い。

パスタ料理を美味しく感じさせるために

ソースが濃いと、パスタの持つデュラムセモリナ粉の味が良く分かりません。それでは、パスタ料理にする意味がない。

パスタでなく、うどんでも良いわけです。パスタの味がしっかりしていると、ソースも乗りやすくなる。全体として、インパクトがあり、セモリナ粉の味が深みを持たせるんですね。

最強のボンゴレビアンコの作り方

最強に美味しいボンゴレビアンコを作るのは、本当に、難しい。こればかりは、美味しく作れる理論があっても、なかなか再現しづらいパスタ料理です。

ですが、これまでお伝えしてきた茹で方の工夫でよりおいしくなります。

ボンゴレビアンコの作り方

一般的には、オリーブオイル、にんにく、鷹の爪を熱したところへ、アサリを入れ、白ワイン、そこに茹でたパスタを絡め、パセリを散らす、というのがオーソドックスな作り方です。パスタ料理に限らず、料理はシンプルなものほど、難しい。ごまかしがきかないからです。

ボンゴレビアンコが難を極めているのは、あさりに要因があります。あさりは、ほぼ一年中、手に入りますが、その味は季節により、産地により、変わります。ボンゴレビアンコは何と言っても、アサリの出汁をパスタが吸い込むから旨い。当然、味の決め手となるのも、アサリなのです。

1つ目のポイントは塩分

中でも、もっとも味を左右するのは塩分でしょう。

その時々によって、アサリが含有する塩分はまるで違います。白ワインを入れ、蒸したあとのスープの味、ここが見極める分岐点になります。それ次第で、パスタを茹でる時の塩分を調整するのです。あさりの塩分が強い場合、パスタを下茹でする際の塩の量は少なくしますし、逆ならば多くします。

これが1目のポイント。

2つ目のポイントは茹で方

ボンゴレビアンコは、アサリの出汁をパスタが吸うから旨いので、普通にパスタを茹でてしまうと、アサリの出汁次第では、うまく調和しないことがあります。

ではどうするかというと、パスタを、白ワインで蒸したアサリスープで茹でるのです。

私は1.7mmのスパゲッティを合わせることが多いですが、8分茹でるとすると、下茹でで4分茹がき、あとの4分は時々フライパンをゆすり、パスタ全体にむらなく浸透するようにしながら、そのソースの中で仕上げます。すると、パスタはアサリの出汁を吸い込んでくれる。

ただし、注意点がいくつかあって、アサリのスープ量と塩分、旨み次第では、下茹でを4分30秒にしたり、ソースで仕上げていく時もパスタがどんどん吸っていくため、ゆで汁を足す必要がある時もあります。

この水分量の調整が非常に難しい。当然、ゆで汁は極力少なくしなければなりません。それだけアサリの出汁が薄まるからです。かといって、少ないと、パサつき、ベトッとした仕上がりになります。

3つ目のポイントは乳化

ここまで上手くのが本当に難しいのですが、逆にここまで出来れば、あとはスピード勝負です。いかに手早く乳化させ、最終の味を決めるか。

パスタがアルデンテになる直前に、オリーブオイル、パセリを入れ、フライパンを振り、一気に乳化させるのです。パスタをしっかり押さえながらフライパンを傾けた時、白濁して、とろっとしたソースが出て来たら上手くいった証拠。

もし、パスタからさらっとした水っぽい汁が出たら、うまく乳化できていません。オイルと水分のバランスが悪いか、きちんとフライパンを振れていないか。どちらかです。逆に、ほとんど汁気が出ないのもアウト。油分が多いか、水分が少なすぎて、パサつき、モタッとした仕上がりになります。

この見極め方法は、他のオイルベースのパスタでも同じです。慣れてくると、パスタの色あいや照りで分かりますが、最初のうちはそうやって判断していました。

こうやって書いていると、出来そうな気になるのですが、実際作ると、ボンゴレビアンコはやっぱり難しい。一筋縄ではいきません。

魚卵のパスタもボンゴレ風に作ると旨い!

最強のボンゴレビアンコは、パスタにアサリの出しを吸わせると旨くなるとお伝えしました。

シチリアでは、魚卵をパスタと和える文化があって、現地ではサバやマトウダイなどの卵を使ったものが定番です。たらこスパゲッティは、シチリア料理が原形になりました。こうした魚卵のパスタも、パスタのゆで汁と、ソースの出しを吸わせるとおいしくなるパスタです。

ただ、ちょっと、難しいのが難点。

作り方は、フライパンに少量のオリーブオイルを入れて、エビやイカ、タコ、もしくは貝類などを炒め、白ワインでアルコールを飛ばします。あさりの出汁、イタリアンパセリ、プチトマトを加え、水分が半分になるまで煮詰めたら、ゆで汁を足します。

茹で時間の半分弱まで茹でパスタ(フェットチーネや1.7mm以上の太めのスパゲッティが良い)を加え、魚卵、あれば魚醤、バター、ニンニクオイルを入れ、フライパンを振り、水分と油分を撹拌して乳化させれば完成。ニンニクを効かせたければ、エビなどを炒める時にみじん切りしたニンニクを加えてもOK。

もし、ご興味あれば試してみてください。魚卵は、塩をしていないものを使用してくださいね。

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