湾に囲まれた海で水揚げされる魚は「うまい」説を検証

感覚で恐縮ですが、湾に囲まれた海で水揚げされる魚介類はおいしい気がします。

駿河湾、富山湾、そして北海道噴火湾。私は、北海道噴火湾の近くの水産加工会社に勤務していました。そのころ、日常的に食べていた魚の旨いことといったら!東京で買う魚で、太刀打ちできる魚はいません。本当です。

なぜ、湾に囲まれた海で水揚げされた魚はうまいのか?その理由を突き止めました。

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川から海へ伝えるメッセージ

私が大事にしている「水五訓」という言葉の中に、

蒸気となり雲となり雨となり雪と変じ雹と化し、凝っては玲瓏たる鏡となりたえるもその性を失わざるは水なり

とあります。これは連鎖と循環を表した言葉でありながら、その本質は変わらないことを説いた言葉だと私は思っています。

海の蒸気は雲となり山にぶつかり雨となって地上に降り注ぎ、川を作り、やがて海へ戻っていきます。川の役目は何かといえば、山の滋養分を海へ伝えること。それによって、海のプランクトンが豊富に育ち、それを捕食する小魚や海老、貝類を育て、さらにそれを餌とする生き物たちの食物連鎖を創り出します。

旨い魚の住処

周囲を山に囲まれた噴火湾の魚の美味しさには何度も感動しました。ある休日、車でぶらぶら海沿いをはしているとき、その理由に、やっと気づいたんです。

右側に海、左側には切り立った山。

幾度もその場所を行き来していると、ある時、川の数の多さに気付きました。数えてみると、30kmの区間で川が20本。支流を含めると、もっと多くの川を数えることができます。

なるほど、この地形にそのヒントはあったんだなと思いました。きっと、海に注ぎこむ川の数とその質により、そこに住む魚の旨さは決まる。同じ魚種でも水揚げされる場所によって、微妙に味が違うのは、それも理由のひとつだろうと思います。

分かっているようで分かっていなかった、五感で感じた発見でした。

落葉広葉樹が育んだ海の恵み

さらに、北海道噴火湾ならではの特徴がまだあります。

魚の旨さは、「海に注ぎこむ川の数とその質により、そこに住む魚の旨さは決まる」と書きましたが、川が海へ注ぎ込む、その質によっても、海産物の旨さは変わるのではないかと考えています。質とは、その山に自生している樹木はどんな種類のものか?で決まります。

ちなみに、広葉樹と針葉樹では、その特徴が大きく違います。広葉樹は葉が広く、幹は太く、固い樹が多い。針葉樹は、葉がとがり、幹は細くまっすぐ、柔らかい樹が多い。

日本の人口林は、針葉樹が多いのはご存知でしょうか?高度経済成長期に住宅建設ラッシュで多くの木材が必要となり、成長が早くまっすぐ伸びて軽くてやわらかく加工しやすいスギ、ヒノキ、カラマツが植林されたためです。広葉樹は、その点、逆の性格を持ちます。成長が遅く、固くて、枝わかれするんですね。ただ、その幹が太く、根を深く張る分、針葉樹よりもどっしりとすることになります。

落葉するか、落葉しないか?

海から立ち上った蒸気が雲となり雨を降らし、山に降り注ぎ、川となって海へと戻る時、どんな栄養を運ぶか。

これが、その漁場の良し悪しを決めます。結論から言うと、理論的にもっとも栄養を運ぶと考えられるのは、落葉広葉樹が多い山です。広葉樹である上に、落葉するのが大事なのです。

というのは、落ち葉が微生物により分解されてミネラルが作られ、そこに雨が降って地下浸透し、そして養分を含んだ川となって海へ流れ込むからです。カリウムやミネラルなどの豊富な栄養分が海のプランクトンを育て、それを食べて育つ小魚や貝類を捕食する食物連鎖が豊かな漁場を作ると考えられます。

私は南の魚よりも、北の魚の方が総じて美味しいと思っていますが、なぜなのか?その理由は、気温の高低差よりもむしろ、落葉広葉樹が多いからではないのかと仮説を立てています。

落葉広葉樹が育む土壌

落葉樹は落葉するのは乾期や寒冷期などの植物が生育する上で不適な時期がある地域に適応した性質なので、寒い地域ほど、広葉樹にしろ針葉樹にしろ、落葉し、自らを守ります。

その土壌は、落葉した葉が昆虫や菌類によって少しずつ分解され、それが何十年、何百年、何千年と地面に積み上げられて、栄養たっぷりの 肥えた土壌になるわけです。だから、落葉広葉樹林を歩くと、地面は柔らかく、湿っている。

そうした山を背景に持つ海の魚は、間違いなく美味しい。そう確信します。

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