イカとタコの先祖は貝?生物学から読み解くイカタコ料理のヒント

イカとタコの先祖は、貝類だってご存じでしたか?

ホントです。びっくりですよね。ここでは、その生物学的特徴から、美味しく料理するにはどうするかまで、考察しました。

目次

生物学から読み解く料理のヒント

イカやタコはどのような進化を経て、いまの姿になったのかご存知ですか?

先日読んだ本『ウニはすごいバッタもすごい』(本川達雄著/中公新書) で詳しく知ったのですが、元々はオウムガイやアンモナイトのように貝殻を背負っていたようです。

なぜイカは空を飛ぶほど、運動能力が高いのか?なぜタコは周囲に擬態するようになったのか?

進化の過程を読み解くと解ってきます。

イカとタコはなぜ、頭足類と呼ぶのか

岩にベタッと張り付いている貝類、たとえばアワビ。イカとタコの先祖は、ああやって岩などにベタッと張り付いてる貝でした。傘を背負ったような形だったようです。

この傘の丈がどんどん高くなってとんがり帽子形になり、さらに丈がのびて、象牙状の細長い円錐形となりました。それにともない、内臓は上の方にずれていき、頭は殻の中に入り込むわけにいきませんから、下のほうに移動し、さらに平べったかった足は、頭からのびる複数の足となり、口の周りを取り囲みました。

こうして、頭のところに足がある仲間を「頭足類」と分類するようになったのです。

アンモナイトやオウムガイをイメージできますでしょうか?下の写真はオウムガイの一種ですが、オウムガイの殻を円錐型のとんがり帽子にしたのが、この時の姿です。

オウム貝

オウム貝

イカとタコの進化の過程

なぜ、そのように形を変えていったのか?

それは、海底や岩に張り付いて暮らす退屈な生活から、水中を泳ぐ冒険に出る為でした。

ただ、殻は重いので、長くは泳げません。気を抜くと沈んでしまいます。大洋の真ん中でいつも水の中にとどまっているには泳ぎをやめるわけにいかない・・。

そこで彼らは、休んでいても海中を浮遊できるように、殻を、浮力を得るための浮きとして利用するようになりました。細長い殻の中に仕切りをつくって、そこにガスをため、水中を浮けるようになったのです。

さらなる進化

イカとタコの先祖は、さらに進化します。もっと自由になるために、殻をどんどん小さくしていったのでした。殻は体内に包み込まれ、イカの場合は、胴を中央に走るプラスチックのような軟骨に、タコに至っては完全に消失します。

それによって、彼らの生活、生き方はがらりと変わりました。殻がなければ外敵から身を守る術がなくなります。そのため、イカは海水を大量に吸い込み、胴を一気に収縮させて時速40キロのジェット推進する能力を身につけました。この推進力は、空を数秒間飛べるほどだそうです。ロケットのような形をしているのはその為だったんですね。

一方のタコは、運動能力を高めるのではなく、海底に潜み、周囲の環境に擬態しながら獲物を狙う、知的なハンターとなりました

料理のヒント

こうした生物学から得た知識は雑学にとどまりません。たとえばイカは、海水を吸い込み、胴を一気に収縮させるために、伸び縮みしやく強固な繊維をもっています。ということは、刺身にする場合、繊維を断ち切るように切ると固いイカも柔らかくなります。

イカソーメンという料理は、その特製を活かした典型でしょう。生物学から考えていくと、イカをどのようにカットすればいいのか、より深いところでわかってきます。

イカの特殊なたんぱく質熱変性のメカニズムを知る

私はある時を境に、イカが大好きになりました。ある時、というのは、函館で何気なくイカを食べたときのことです。

「あれ、こんなに、イカって旨かったっけ?」

函館名物の踊り活イカではなく、普通に刺身で食べたイカです。季節は11月でした。驚くほど身が甘く、噛むほどに旨いが出てくる。イカの味が濃いから、醤油はほんの少しつければ十分。

余韻も嫌な香がなく、ねっとりと残る甘味を日本酒で流し込むと、本当に生きてて良かったとさえ思いました。

イカのたんぱく質メカニズム

イカの筋肉(たんぱく質)は魚とは構造が違います。熱の加え方によっても、違った変化をするのです。

イカは60度を境に、たんぱく質のメカニズムが変わります一番やわらかい火入れは60度で仕上げること。逆に固くするには80度にします。

料理の目的によって、変えればいい。ペースト状にして、ムースにしたり、つみれにする以外には、柔らかい方が一般的に好ましい食感といえます。やや表面を固くして、プリッとさせるなら強火で短時間、焼くのも良い。

シンプルにボイルする場合は、ちょっと注意が必要です。100度の沸騰したところへ入れる場合、決してボイルしすぎてはいけません。イカの品種によっても変わってきますが、5分以上ボイルするのはタブー。

80度前後のもっとも固い状態になり、この固さは、更に熱を入れて25分。細胞が壊れるまで火を入れないと柔らかくなりません。焼く場合も同様で、5分以上焼くと、固く感じます。

ということは、サッと炒めるのが良いのです。

一度、固くなったイカを柔らかくするには?

面白いのは、イカは80度で火入れして固くなっても、再び柔らかくすることが可能なこと。25分以上、煮込んだり、加熱すると出汁が出て、柔らかくなり、それはそれでうまくなります。食感も、5分以内の調理と比べ、繊維がなくなり、箸ひとつでホロッと崩れるほどの柔らかさ。

イカの熱変性による、このメカニズムを知っておくと、料理にどう生かせばいいか、わかりますよね。食感は、料理に置いて大事な構成要素ですから。

函館のイカが抜群に美味しい理由

さて、私が感動した、函館のイカは何だったのか?あの驚きのうまさの正体とは?

これは生物学的にいっても、旨いのは当然でした。イカと言うのは一年魚です。函館真イカは品種でいうと、スルメイカ。

スルメイカは春に九州で生まれ、北上しながら北海道を通り、オホーツクまで行き、今度は産卵のため、南下を始めます。その時に函館周辺で捕れるのが、ちょうど秋~冬。

11月頃です。

産卵のため、エサを活発に食べる時期なので、肝もパンパン、身も肉厚なんですね。子への栄養もいっていない時期なので、スルメイカが最も美味しい時期なのです。だから、素材自体が本州で食べるイカよりも圧倒的に、旨かった。

パリッとした鮮度を求めるか、それとも、じわりとうまい熟成を求めるか

もう一点、集魚灯をつけて、函館沖で漁をしたイカ釣り漁船は、早朝、まだ陽も登らぬ午前4時頃、市場へと荷をおろすのです。その日の内には、スーパーに並び、飲食店へ届けられる。だから、スーパーで買っても、鮮度が抜群に良いんです。午前中に行けば、身が透き通っているほどですよ。

ただ、鮮度の良さは美味しい理由のひとつですが、それ以上に大事な要素がある。

それは、熟成です。

もともとの鮮度が良いので、一晩、寝かせても十分、刺身でうまい。むしろ、グッと甘味、旨味が増しているのです。食感もパリッとした歯ごたえの良さから、少しねっとりとした柔らかく甘い感じで、日本酒をちびちび飲みながら食べると最高。

イカの一夜干しが好例です。

イカには遊離アミノ酸であるグリシン、アラニン、プロリンが多いので甘味を感じるわけですが、乾燥させるとそれらの成分が増長します。刺身でも、一晩、寝かせると旨くなるのはそういった理由があります。

いずれにせよ、函館のイカは最高ですね!

史上最強の無脊椎動物”たこ”

たこは、この世で最も賢い無脊椎動物だそうです。

たこは、8本の腕と、3つの心臓、青い血、そして、9つの脳を持っています。マジシャンよりも素早い擬態のテクニックは並外れていて、地球上の誰よりも早い0.3秒というタイムだそう。ひとつ、相対的にたこが劣るのは、短命であること。たこは、寿命が短い。

世界最大のたこ、ミズタコでも3-5年。しかし、3年で、その重量は20kgを超えます。たこ料理を調べてみても面白いかもしれません。全世界のたこ漁獲量の半数以上は、日本人が食べています。

それだけ、日本人はたこが好き。

サスティナビリティな食材?

あらゆる海産物の漁獲量は年々、減少しています。たこも、例外ではないのですが、ある海域では、たこは生態系の頂点である為、どれだけ獲っても減らないと言われています。

それは、北海道噴火湾の水たこ。ただし、マダコが取れなくなっている為、日本各地で文字通りひっぱりだこで、漁獲量が多くても、現在は、価格が上がっています。それに、あまりに乱獲すれば、いくら生態系の頂点とはいえ、少なくなる可能性はある。

でも、他の魚類に比べると、たこの成長スピードは早く、環境適応能力も高い。なにしろ、この世で最も賢い脊椎動物です。

私は、海産物の中ではサスティナビリティ(持続可能)な食材だと思っています。いくら美味しくても、100年後、あまりに高価であったり、手に入らなければ、レストランの主力メニューとして扱ってはいけない。

以前、たこの料理を紹介しましたが、たこは、そういった意味で、注目している食材です。

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