高尾山の麓で2021年開業予定のグランピングレストラン

東京・高尾のグランピングレストラン かくれんぼ

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遊び心

創作小説『トーストの話』前編

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近所のらーめん屋さんに行った、その帰り道のことである。

僕たちは、すこし遠回りになるぶん車通りのすくない道を選んで歩いていた。車一台通れるくらいの、細い道である。ふと、落ち着かない違和感を覚えた。日常的によくありそうで、ないものを見た、気がして、もう一度、それを見た。道の端に、ぽつんと、一枚。きつね色にこんがりと焼けた、おいしそうなトーストが落ちていた。

「なにあれ?トースト?」

彼女も気付いたようだった。

「うん、どう見てもトーストだ」僕たちがちょっと驚いたのは、それがあまりにも完璧なトーストだったからだ。「完璧なトーストだね、見た目には非の打ちどころがない」

「どうしてこんなところに落ちてるんだろ?」

「さあ・・・学生か、あるいはサラリーマンとかが家出るときに慌てて落としちゃったんじゃないかな」

そのくらいしか思いつかない。しかし、下手な推測をするにはまだ早かった。彼女が、「あ、あれ見て!」とすこし離れたところを指さしたその先に、トーストと思われる四角い物体が落ちていたのである。

はたして、それはトーストであった。完璧な。

「またしても、完璧なトーストだ」

「ほんと」僕たちは顔を見合わせる。「謎だね」

「わかった、トースト配達じゃないかな。ほら、牛乳配達みたいに、ちゃりかなにかで運んでる途中、ぽろ、ぽろと・・・・」

「えーちがうよ、だいたいそんなの、ないでしょ。きっとあれよ、あれ」

「あれって?」

「だから、あれよ」

「だからあれってなんだよ?」

「犬の仕業ね。あの子ら余計なことばかりするから」

「犬だったら歯形とかつくよ。完璧なんだよ何しろ。焼き具合も、形も。かじった後もなければ、バターもジャムもつけられてない」

「じゃあ、なんだろう?」

「なんだろうね」

その後も僕たちは様々な憶測を飛び交わせた。家を出るときに、歩きながらだか自転車に乗りながらだかトーストを食べようと思っていたところが、途中で落としてしまったんじゃないか、でも、それだと不自然すぎる。何しろ、二枚も、かじりもしないトーストを落とすなんて、よほどのまぬけか、トースト嫌いかだ。トースト嫌い・・・

「そうか、それは考えられなくもないな」

僕は思いつくまま話した。

たとえば彼(トースト嫌い)には、やさしい奥さんがいたとする。彼はなにかのきっかけで、トーストが食べられなかった。食べてお腹を壊したとか、かりかりの部分が喉に突き刺さってトラウマになっちゃった、とか。そのことを奥さんは知らなかった。彼らは新婚で、お互いの好みや習慣をまだ完全に把握しきれていなかったんだ。

ある朝、彼が食卓につくと、上手に焼かれたトーストが二枚、彼の皿にのっかっている。彼は、トーストが食べられないということを言おうとして、思わず、口をつぐむ。あまりにも完璧なトーストだったから、これは奥さんがトースターをじっと見守りながら、自分の為に、これ以上ないくらい、完璧に、焼いてくれたに違いない。そう思うと、彼には何も言えなかった。そこで奥さんは無邪気に尋ねる。あら、どうしたの?お腹の調子でも悪いの?ごめん、焼き具合、気に入らなかったかな。彼には、奥さんの心遣いが嬉しく、本当にかわいらしいひとだと感じられる。しかしその反面、少しだけ、うっとうしくも思ってしまう。言おう、その瞬間、彼は思う。ごめん、僕はトーストが小さい頃から食べられなくてね。そう言って、さっと家を出ればよし!それでこそ、男らしい態度いうもの。自分は亭主なんだ。まいにち奥さんとの未来の為に、一生懸命働いている。亭主の好みにあった朝食くらい、これからは作ってくれなくちゃ。・・・でも、彼の口をついて出たのは弱々しい言葉だった。いや、今日はもう出なくちゃいけないから、歩きながら食べるよ。実は、昔からそういうの憧れてたんだ。歩きながら君の焼いてくれたトーストを食べる、僕は太陽の光を浴びながら、君と暮らすことの歓びを感じるんだ。そう言うと、奥さんは恥ずかしそうに笑って、頬を赤らめる。そのときだけは彼も、嘘をついてよかった、とこころの底から思う。奥さんの笑顔を見れたら、彼は満足だった。問題は、トーストをどうするか・・・。

外に出ると、太陽が痛いくらい、まぶしい。彼がそのとき感じたのは、愛情ではなく、うしろめたさだ。彼はいつになく背中を丸めて、歩き始める。これから、奥さんが焼いてくれたトーストをどうにかしなくちゃならない。彼は、悩んだ。ゴミ箱に捨てようか、いや、だめだ。そんなことはできない。ましてこの、完璧なトーストを犬にくれてやるとか、握りつぶしてめちゃくちゃにしてしまうとか、できるはずもない。もはや彼にとってトーストは、単なるトーストではなくなっていた。あまりにもそれは、完璧に焼かれていたから。彼にとっては、奥さんの愛情、そのものになってしまっていた。彼は歩く道々、考え続けた。そうして、ハッと思いついたのが、トースト配達人。

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