2023年の春、HICOを訪れたあるカップルの話 Vol.1
2023年の春。
東京オリンピックも終わり、3年が経った頃のこと。
これは、未来のHICOを訪れたあるカップルの話です。
お客様視点で、HICOはどんなレストランになっているか、想像してみました。
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卒業してから、もう3度目の春。
私は彼に連れられて、東京の郊外にあるカルツォーネ専門店を訪れた。
1日3組限定の完全予約制レストランで、予約は3か月先まで埋まっているらしい。
「やっぱりバイクより楽だな」
ソファにもたれた彼が言った。
「バイクも良かったけど」
天井のルーフを見ると、ガラス越の夕空。
先月、彼は車を買った。ほとんど手放しで走行できる自動運転車。バイクと違って、車内でどれだけリラックスできる空間を作るかだといって、彼は何万円もするソファを取り付けた。
そのカルツォーネ専門店『HICO』は都心から車で1時間ほどかかる。到着したころには薄暗くなっていた。
そこだけオレンジ色の懐かしい光がさしている。車を止めると、ログハウス調の建物から人が出てきた。
「ようこそ、吉田さん!」
「どうもその節は」
2年前、彼はここのオーナーが書いた本の出版を手伝ったそうだ。レストランを開業するまでの記録をまとめたものらしい。電子書籍としては評判も良かったと彼は言っていた。
「はじめまして」
彼女です、と彼に紹介され私はいった。オーナーはにこやかに頭を下げて、どうぞというように私たちを案内した。
「わあ、すごい・・・」
エントランスを抜けると、カウンターキッチンだった。天井が高く、正面は映画のスクリーンのような大きな窓で、庭を広く望める。暗くなりかけた庭先にちらちらと火がゆらめくのが見えた。カウンターの向こう側には大きなピザ窯があり、キッチンは理路整然としているのにどこか温かみがあった。真っ白なまな板の上の包丁が、見たこともないくらいぴかぴかに磨かれていた。
こちらへ、とフロアの奥にある部屋へ私たちは案内された。
「さあ、薪を割ろうか」
部屋にはいると、と彼が言った。
「まき?」
「そう、ここから庭に出れるようになってるんだ。おいでよ」
外は、思ったよりも開けた空間になっていた。焚き木の側にデッキチェアが置いてある。木と木の間にハンモックもあった。
「キャンピング場みたいね」
「本当だね」
彼はそういうと、ゴルフクラブのようなものを差し出した。
「大丈夫、子どもでも出来るから」
切株の上に木材をおくと、彼は顎をくいッと上げて、やってごらんというように微笑んだ。よくわからないまま、木材めがけて振り下ろすとカンと鳴ってあっさり真っ二つに割れた。
「な、簡単だろ」
やっているうちに楽しくなってきて、私たちは交互に何本もまき割りをして、気づけばそれなりの束になっていた。
部屋からは、庭が見えるようになっているけれど、カウンターのフロアより窓を広くとっていない。
「すてきなところね」
「そうだろ」
彼はうれしそうに言った。
「オーナーの本は俺のはじめての仕事だったんだ。苦労したけど、面白かった。いい店に出会えた」
テーブルクロスの手触りが心地よい。この生地をシルクっていうのかな、と思った。
「お腹へってきたね」
「ちょっと運動したしね」
ノックの音が聞こえて、オーナーが入ってきた。
「まき割りはどうでしたか?」
私に聞きながら、目の前に水晶玉に脚のついたような、不思議な形の器をそっと置く。
「なんか、すごく楽しかったです。ふだんしないようなことしたから」
それはよかったと言って、彼の眼の前にも同じ器を置いた。
見ると、器の中央に細長く立ち上る小さな気泡がある。
「これ、なんですか?」
「ガラスの中にスパークリングワインを閉じ込めてあるんです」
「スパークリングワインが?」
「はい、これはお隣の山梨で作られたスパークリングワインで、とても細やかな泡の口当たりと喉を通る感じが爽やかで素晴らしいんです。グラスの中央をみてください」
「きれい・・・」
「きれいですよね・・・。この泡が細かくて、連綿と途切れることなく持続する程、良いワインだといわれています。フランスではこうした上質なスパークリングワインへの最大の賛辞として、星が詰まっているという言い方をします」
「へえ・・・」
「さて、それでは、コースをはじめさせていただきましょうか!」
オーナーはにこっと会釈して、部屋を出た。
>>>未来予想図Ⅱの続きへ
コロナショックにより、人の暮らしから考え方、働き方は大きく変わるのでしょう。
どうなるのか?というよりも、どう生きたいのか?
たいせつな人たちと楽しく人生を送る為に必要な資産と、生き方を、ない頭で頑張って考えてます。あなたのお役に立てれば幸いです!