ソムリエ資格取得し、さらにシニアソムリエを目指す際の注意点

私は、2007年にソムリエ資格を取得し、2014年にシニアソムリエ(現ソムリエエクセレンス)の資格を取得しました。

「どうしたらソムリエになれるんですか?

とお客さまやクライアント様に聞かれることがあるので、私が考える、最短の学び方をご紹介します。

目次

ソムリエの難易度と市場価値

ソムリエになるには、一般社団法人日本ソムリエ協会が毎年実施している資格試験に合格すればなれますが、お客様が本当に知りたいのはその「難易度」と「価値」であることが多いですね。

まず、ソムリエになるには受験資格を満たしていなければなりません。ソムリエは、3年以上、飲食店で勤めた経験がある人が受けれる試験です。

ちなみにシニアソムリエはソムリエとしての職歴を最低3年。飲食店経験は10年ないと、受験資格がありません

詳しくは、日本ソムリエ協会のホームページをご覧いただければと思います。

ソムリエの価値はどんどん低くなる?

おそらく、ソムリエの価値というのは年々、低くなると考えています。たとえば、弁護士とソムリエ、国内において、有資格者の多いのはどちらの職業だと思いますか?

答えは、弁護士。

弁護士36,415人に対し、ソムリエは21,437人(データは2015年時点)。飲食店の数は約67万店舗ですから、31店舗に1店舗はソムリエが在籍することになります。これは多いでしょうか、少ないでしょうか?

正直、こんなに増えたのか、、、とがっかりしています。私がソムリエ資格をとった当時は、10,000人弱でした。今はその倍以上。都心部にいけば、ほとんどのお店には有資格者がいると思って、間違いないでしょう。ソムリエというのは、そう珍しくない存在になっているということです。

シニアソムリエの市場価値

ところが、シニアソムリエ、となるとグッと少なくなるのです。何人くらいだと思われますか?

答えは、1,993人(2015年時点)。

ソムリエ有資格者のなんと、9%。こうなると、価値が出てきます。希少なものの価値が上がるのは市場原理です。逆に、ありふれていれば、価値は下がる。

私はシニアソムリエの資格を2014年にとりました。決して、自慢ではありません。冷静に、客観的に見て、強みのひとつであると思っています。本質は資格うんぬんより実力ですし、何より将来的に、その市場価値は低くなる可能性もあります。少なくとも、ただのソムリエでは、淘汰されるでしょう。

理由は、AIとロボット産業の発展により、知識型のソムリエの必要性は半減するからです。弁護士、会計士、税理士など、いわゆる士業の職業と一緒ですね。

実際に、ワインを調べるアプリはすぐに見つけられますし、どんな料理に合うか、ソムリエを必要とせずとも、より的確に、多くの選択肢からAIは探してこれます。Amazonのリコメンドシステムのように好きなワインを登録すれば似た系統のワインはいくらでも提案できます。

これまで人が、何年と積み重ねてきた知識も、AIなら数分で網羅してしまうのですから。

資格の有無より、サービスマンとしての資質が問われる

ソムリエは専門的な知識、技術を有しますが、一番大事なのは、サービスマンとしての資質です。お客様の立場に立ち、お客様を楽しませたいという心。実力はそこで培われる。容易にAIには犯されない領域でしょう。

たとえば、お酒に強くない女性に何をすすめるか?ロボットはアルコール度数も低く、料理にはぴったりで、好みに合った一杯を選んでくれるかもしれない。でもソムリエは、その女性のイメージや気分に合ったカクテルを作れます。また、ミネラルウォーターに赤ワインを数滴たらして、色を楽しむ演出をするかもしれません。もしくはワインにまつわるストーリーを話して、会話で楽しませることも可能です。

相手の立場に立ち、どう喜んでもらおうか、楽しんでもらおうか。考えているその心からは、ロボットではなしえない無限のサービスを広げることができるのです。

ワインは、まだ見ぬ映画のように見てみないと分からないところがある

ただ、ワインが難しいのは、抜栓してから味わいや香りが変化し、飲み頃を見極めるのはちょっとやそっとでは、わからないことです。また、同じ銘柄であっても保管状況により、大きく味わいに差が出ます。特に高級ワインの場合、仕入れ先との信頼関係がないと、買えません。

もしかすると、プロフェッショナル性の極めて高いソムリエは、むしろ価値が高くなるかもしれないですね。映画評論家がどれだけ絶賛しようが、見てみるまで自分の好みに合うかわからないと同じように、ワインは開けてみるまでわかりません。

私も立場上、どんなワインがおすすめなのか、よく聞かれます。ワインは解ろうと思えばたしかに難解で、私自身もまだまだ理解できたと思っていません。

広い海を想像してみてください。ソムリエは、どこでどんな魚が連れるかを知っていて、その楽しみ方を提案できるというにすぎません。深い海の底まで潜って、すべてを知るのは無理な話なのです。

ソムリエを目指す方に伝えたいこと

これからソムリエを目指す方には、ソムリエになること自体を目的にするのではなく、ソムリエになって何をするのか、ということを念頭におくようアドバイスしています。あくまでもソムリエは手段として考えておかないと、ただのソムリエ業ではお客様からも、会社側からも必要とされません。10年前ならまだしも、お飾りで存在する価値は、ソムリエにないからです。

せっかくやるなら、シニアソムリエの取得までを目指すべきです。資格はあくまで資格で、それ以上でも以下でもなく、過度に重みを持たせるべきではありません。しかし、シニアソムリエの数は、ソムリエのたった9%、全国で約2000人しかいません。逆に言えば、ソムリエになった人の91%はシニアソムリエにならないというのが現実なのです。

繰り返しになりますが、数が少なくて需要があるほど価値が上がるのは、市場原理です。

ソムリエ試験の内容

さて、試験内容について簡単に解説します。

ソムリエ試験は、1次、2次と段階があります。1次試験は筆記です。マークシート式の問題が約100問出題されます。ワインに関することはもちろん、日本酒や焼酎、ミネラルウォーターなど飲料全般に関する知識が問われます。また、食に携わる者としては当然の意識を問う、衛生や食中毒についても最低限の知識がないといけません。

でも、車の運転免許を取る時と同じで、何度も繰り返し問題を解いていけば、誰でも70%はクリアできます。それが合格ラインですので、難しくはありません。

テイスティングと実務

2次試験は、1次試験を突破したら受けられます。試されるのはテイスティングと実務。

テイスティング試験の定番は、3種類のワインとその他の飲料のブラインドテイスティング。すべて銘柄を伏せて、ワインであれば、色合い、香、味わいの表現、それから生産地やブドウ品種、ブドウの収穫年などを答える形式になっています。これもマークシート式なので、コツさえつかめばそう難しくありません。

実務試験は、練習が必要です。

これは、格式あるフランス料理店に勤めている方が圧倒的に優位。日ごろから教本通りのサービスを実践できるからです。業態上、形態上、それが難しいお店は、本やビデオをじっくり見て、ポイントを踏まえ、学びなおさないと難しいです。

私も勤め先はイタリア料理店でしたし、カウンターサービスが中心でしたので、型を一から勉強しました。18工程くらい手順が細かく決まっているのです。

試験ではかなり緊張しました。まして試験官は、ソムリエとしての経験を積み重ねてきた熟練の先輩方。ワイン雑誌で顔を見る著名な方もいました。ソムリエ試験では、デカンタージュといって、ワインをカラフェ(ガラス瓶)に移し替える作業を行います。制限時間は3分。私は2分かからず終わってしまって、手順をすっとばしたかな!と焦りましたが、ただ拙速に進め過ぎたようです(笑)

シニアソムリエを目指す方へ

ソムリエと比べて、シニアソムリエになるには、どのあたりが難しいのか。

シニアソムリエは、ソムリエ資格を取得して3年経っていること、飲食店で10年以上の実務経験があることが受験資格になります。

今からソムリエ資格をとるなら、シニアソムリエまで目指すべきと部下には伝えてきました。日本にソムリエ資格を持つ人は、2016年度の統計で23,096人。シニアソムリエは2,036人。圧倒的に、シニアソムリエの方が少ないのです。

最大のポイントは、日々コツコツ学ぶこと

試験内容は、ソムリエより格段に難しくなりますが、日々、コツコツと重ねていけば、心配ありません。ただ、準備期間は少なくとも半年はほしいところです。一日30分から1時間勉強する時間を作れれば、筆記試験は必ず通ります。

問題はかなりマニアックなものも出てきますよ。クロアチアやチェコなどマイナーなワイン産地の知識も問われました。それに数問、英語での出題があります。問い自体は難しくありませんが、まずは質問を理解できるかどうかです(笑)

スパークリングワインのサービス

難しいのは、2次試験。私が受験した年は、仮想客への発泡性ワイン(スパークリングワイン)のサービスで、これを1分30秒以内に終えなくてはなりませんでした。手順通りにいくと、ぎりぎりの時間です。発泡性ワインは、注ぎ方はもちろんですが、グラスの温度や汚れでも泡の立ち方が違います。

グラスがワインよりもあたたかすぎたり、ほこりがついていたりするだけで、ブワーッとすごい勢いで泡立つのです。ボトルも重く、片手では掴みにくい形状のものも多いので、美しく注ぐのは結構むずかしいんですよ。

プレゼンテーション

1分30秒でサービスを終えたあと、今度は1分30秒で、サービスしたワインのプレゼンテーションです。私にとって幸いだったのは、そのワインが普段から使っていたワインだったこと。

「ASTIといって、イタリア・ピエモンテ州の発泡性ワインです。日本ではマスカットと呼ばれるブドウ品種から作っておりアルコール度数も低めなので、ワインを飲みなれない方にお勧めです。わかりやすく言うと、白ぶどうスカッシュですね!合わせる料理は、、、」

なんて説明して、そろそろ良いかな、、、と思っていると、試験管の方は「あと30秒です」と来た。

もう説明することないよ、と焦りました。「中でも20歳になりたての女の子にはおススメです。でも、飲みやすいので、あまり飲み過ぎてはいけません。。。」と最後は訳の分からないことを言っていました(笑)

プレゼンテーション2

シニアソムリエの試験で特徴的なのは、サービス実技よりも、プレゼン力が問われたことです。次の課題も、料理名の書かれた紙を渡されて、それぞれに合わせるワインと、その理由をプレゼンするというものでした。これは普段から、お客様に提案していないとできません。教科書通りの料理は5品中2品くらいだったと思います。

この課題に、明確な答えはありません。各ソムリエの個性が光ります。苦手な人も多いようですが、私はこういう課題の方が得意でした。ワインと料理の合わせ方と言うのはセオリーがあるようでなくて、最も大事なのは、その瞬間をどう楽しみたいかという、飲み手の目的だと思うのです。

最短で、ワインを学ぶなら、その道の一流を知れ

その道を極めるなら、一流を知れ。とよく言われます。ワインも同じです。

それを実感したのは、ソムリエになって間もない頃、5大シャトーを20mlからテイスティングしてもらえる企画をした時のこと。2008年のことでした。

題して「5大シャトーテイスティングラリー」。

この企画は大当たりして、多くのワインファンを獲得できました。何よりの経験は、世界のトップワインを集中してたくさん味わえたことです。5大シャトーとは、フランス・ボルドー地方のトップワインで、格付け1位の5つのワイン。同じブドウ品種、同じ産地で作っているにも関わらず、造り手の哲学や思想、わずかな畑の土の違いが、大きくワインの味を左右することをしりました。

5大シャトーは、歴史、品格、価格、すべてにおいて、今も昔も一流です。それにしても、なぜ、これほどの個性が出てくるのでしょうか?

テロワールという概念

ワインを構成する要素として、テロワールという概念があります。これは、そのワインが育った環境を意味する言葉です。人の人生でいうならば、どんな幼少時代を過ごしてきたのたか?ということ。

どこで生まれて、どんな風に育ってきたか。

北海道で生まれ育った人と、沖縄で生まれ育った人は違います。また、同じ北海道で生まれても、親の考え方や育て方によっても違うでしょう。それに、その子自身が、どんな使命を背負い生まれてきたのかによっても、大きく異なるはずです。まったく同じ人生を歩む人など、いるはずがありません。

ワインも一緒なんですね。5大シャトーは大きなくくりで見れば、フランスのボルドー地方のメドックという地区の中でトップを獲った5つのワインです。生まれ育った場所は近いけれど、家系も違えば、育て方や微妙な環境も違い、それぞれのポリシーも違います。

個性の差が出るのは当然で、むしろ、その軸がぶれないからこそ一流なのです。

違いを知る

ワインを理解するには、この違いを知ることが最も大事だと思うのです。

つまり、生まれ育った場所を知り、環境を知り、ポリシーを知ること。テロワールと言うとわかりにくいですが、その意味するところは、以上の3つです。

一流は、それがはっきりしている。だから、理解が早いのです。

対して、安物のワインは、個性に乏しく、どこで作られ、どんなブドウ品種を使って、どんな環境の中、どんなポリシーでもって育てられたのか、わかりづらい。それらをいくら飲んでみても、迷うばかりで、理解が進まないのです。

ワインだけではないと思いますが、その道を極めるのは、一流を知ることが一番の近道だと思います。

ワインを販売していくための参考データ

さて、突然ですが、クイズです。日本人は一年間に、平均してワインを何本飲むでしょう?1人あたりの平均です。皆さまご存知でしょうか?

A:約3本

B:約10本

C:約20本

D:約30本

ヒントはイタリア人で約60本!(※1本750ml)

ということは、月に5本。1週間に1本は飲むということですね。1人あたりですから、4人家族の場合、一週間に4~5本ボトルを開ける計算です。イタリア人は毎日、グラスワイン1杯くらいは飲んでいるということ。なお、ワイン消費量と成人の人数で割った平均なので、飲まない人も含まれます。

クイズの答え

答えはAで、約3本(約2リットル)。あたりましたか?

スーパーやコンビニでのワイン販売スペースは年々大きくなっているような気がしますが、イタリアの1/20なんですね。ちなみに日本人のビールの消費量は、350ml缶に換算すると、約124本(約45リットル)ですから、月の平均でいうと約10本。3日に1本は飲んでいる計算です。

ビールに比べると、ワインの消費量は少ないですね。私は一時、年間365本飲んでいましたから、かなり貢献していました(笑)なお、世界で最もワインを飲んでいる国は、納得されると思いますが、フランスです。ボトルに置き換えると約69本。イタリアは2位です。

ところが、フランスやイタリアの若い世代は「ワインなんて古臭い」「じじいが飲むもんだ」ということで、ワイン離れが進んできているようです。そのため、消費量も生産量も減っている。日本における、日本酒と同じ状況です。

ワインも日本酒も、その土地に根付いた文化や歴史があります。そういうのを知ると、ただ飲んで酔っぱらうだけでなく、想像する楽しみができます。ワイン程、ストーリーに満ちたお酒はないんじゃないでしょうか。

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