繁盛店が優れているのは、マーケティングができているからです。でも持続するには、同時に人間学が必要だと思っています。
マーケティング×人間力。
その両輪あってこそ「勝ち続ける」飲食店は作れると思っていますが、ここではその根拠を述べたいと思います。抽象的になりがちなテーマですがどうぞお付き合いください。
飲食店が勝ち残る戦略
私が年勤めたレストランはかなりの人気店でした。客単価は5500円。12月の繁忙期にもなると30坪1店舗で月商1000万を超えたこともあります。
時々、当時のお客さんに言われたことを思い出すことがあります。
仕事というのは感動と感謝の交換なんだ。対価を払うのは感謝のしるしにすぎない。
まだ若かったので、料理とサービスの質を高めれば良いと単純に考えていた私には目の覚める言葉でした。おいしい料理を出せばいいんじゃない。至れり尽くせりのサービスが良いのでもない。
感動してもらわないと、意味がないんだと。
感動を数値化するなら?
そう考えると、売上というのは「どれだけの人を感動させたか?」ということを数値化したものです。
売上の公式は、一般的に「客数×客単価×回転率(リピート率)」で考えますが、ひょっとすると、こうも考えられるのではないでしょうか?
客数×感動の質
以上の式がイコールなら、「感動の質=客単価×回転率(リピート率)」といいかえることもできます。
感動の質を高める
逆説的ですが、感動の質を高めることができれば、客単価を上げることもできるし、リピート率を上げることもできるということになります。
今後、日本のマーケットが拡大することはありえません。2025年には3人に1人が65歳以上です。消費が活発な層は6000万人程度という数字がすでに出ています。
経済が厳しくなれば、ますますマーケットは縮小しますから、ここをどう考えるか、飲食店に限らず、企業存続のためには考えなくてはいけません。
勝ち残る戦略とは?
人口縮小社会において、客数を増やすには、競合店から奪い取るしかありません。それも生き残りをかけた立派な戦略だと思います。競合店がなくなれば、むしろ客数は増えるでしょうから。
しかし現在、本来は単価の高いフレンチでさえ、安値合戦に入っています。競合店との競争において、いかに価格を安くするかのしのぎ合いが始まってるのです。ただ、考えなければならないのは、競合店に勝ったところで、ディスカウントで勝ち取った勝利に持続性はあるでしょうか?
ディスカウント=利幅を下げる、ということですから、勝ったところで利益体質ではなくなっているはずです。
客数に頼らない戦略
客数を増やす戦略をとらないとすれば、どうするか?そこで有効な手立てが、感動の質を高める。ということです。
先ほど書きましたが「売上=客数×客単価×リピート率」です。これを置き換えると「売上=客数×感動の質」でした。
客数を増やす戦略は、血みどろの激しい戦いになりますが、感動の質を高める戦略ならば知恵と工夫次第ではないかと思うのです。
付加価値を上げる!
じゃあ具体的にどうするのか?安値合戦に比べれば、あらゆる切り口があります。単純に、誰にも作れない料理を開発する、でもいいかもしれません。とことんまで大衆料理を極める、というのもできると思います。
接客で差別化する、という切り口も素晴らしいですし、イベントや企画などで地域一体となって盛り上げるのも現在の繁盛店がやっていることでもあります。ひょっとしたら、店舗を持たずに、ひそかに流行りつつあるキッチンカーで全国行脚するのも面白いかもしれません。
いずれにしても、いかに安く提供するかではなく、いかに感動の質を高めるかに焦点を置いた方が、飲食店の未来はよっぽど明るいと思っています。
5年連続で110%伸ばしてる居酒屋
今日の経済の良くない時代に5年連続で前年比110%を安定して伸ばしている居酒屋さんから聞いた話をシェアしたいと思います。
その居酒屋さんは席数約30席、単価は4000円前後です。海産物がメインで、2か月ごとにテーマを変えてフェアをやっています。たとえば、5・6月は浜焼きフェア。7・8月は沖縄フェア。9・10月は北海道フェア。
メニューは2か月前から検討を始め、1か月前には決定。ただ、写真撮りは広告掲載用以外はしないそうです。
独自のメニューブック
メニューには料理画像を載せません。かわりに、イラスト付きの手書きメニューを作成してます。食材のイラストや、料理イラストを色鉛筆で書いて、店長自らメニュー作りしてるんですね。
一度、見せてもらったことがありますが、これが素晴らしくて、見ているだけで楽しいんです。facebookやインスタグラムなどSNSの発達で、料理画像はいくらでも出てきますが、オリジナルイラストはそう多くありません。
美味しそうで、洗練された料理画像はお客さんからすると見慣れてしまって、多少のことでは驚きませんし、感動しません。イラストだと想像力を掻き立てられます。
2か月に一度変わる、このメニューだけでも、お客さんが楽しみに来店する動機のひとつになりますよね。
伸ばしている秘訣
しかし、このメニュー戦略は、表層的なことで、伸ばし続ける秘訣ではないようなんです。
店長に、「毎月伸ばし続ける秘訣ってなんですか?」と聞いたところ、即答でこう答えました。
「そりゃ、誠実さですよ」
・・・・・・・
誠実さ。
それを聞いて、感動を覚えるのと同時に、ふとこんな疑問を抱きました。
「伸ばせずに真剣に悩んでいる飲食店は誠実さが足りないということか?」
感動の質を高める
誠実さ。
それがすべてではないでしょうが、大事な要素のひとつなんだろうなという直感はあります。もしかすると、店長自身も、伸ばし続けている本当の理由を正確に認識されていないのかもしれません。誠実さといっても補足が必要に思います。
息の長い商売をするためには、客数を増やす拡大路線の戦略ではなく、感動の質を高めることが重要ではないか、というのが私の提案でした。
傍から見ていて思うのは、その居酒屋さんが安定して伸ばし続けているのは、顧客が楽しいと感じることスポットをあてて、労を厭わず向き合ってるからだと思うんです。
誠実さとは
メニューイラストを描くといっても、楽ではありません。お見せしたいくらいですが、とても丁寧に描かれています。食材への敬意、料理への愛情が感じられます。
私が見せてもらったメニューは4ページありました。テーマによっては、もっと多い時もあるそうです。日々の仕込み、人件費・コスト管理など、忙しい運営の中で、それだけの時間を作るのも大変です。それでも顧客の楽しみのため、継続して描き続ける。
こうしたことをさぼらず、コツコツと積み重ねていくのが、店長にとっての「誠実さ」なのでしょう。感動の質を高める、というのは小手先の手法ではなく、信念を伴った誠実さが必要なんだろうな・・・話をきいていて思いました。
お客様第一!という飲食店が潰れやすい理由
すべてはお客様の為。サービスを磨き、料理を研究し、努力している飲食店がほとんどでしょう。お客様なくして、お店は成り立ちません。
ですが、お客様の為、という顧客第一主義も、一歩間違うと自分の首を絞める結果になります。実際「お客様の為!」と頑張ってきた飲食店が潰れた例は数え切れません。一方、お客様を大切にしながらも、第一主義と掲げていない飲食店は不思議と残っている気がします。
なぜだと思いますか?
行き過ぎたサービス
飲食店に限りません。今や24時間、コンビニが開いてるのは当たり前。宅急便が、希望時間に届けてくれるサービスも当たり前。その常識が少しずつ変わろうとしています。
働き方や人口縮小社会において、それを持続するには今の延長上に未来はない。いまのところ、それらは人的サービスだからです。人が少なければ、残業でカバーもできたでしょう。
でもそれは違法です。
それぞれの分野でサービス合戦をした結果、立ち行かなくなっているのが今。
苦い経験
飲食店でも「お客様の為に」という名目でサービスを強化していくと、必ず無理が生じてきます。私の勤めていたレストランでもありました。閉店時間は夜の10時です。
そこへ、10時すぎてからお客さんが来ます。それもトップクラスの常連様。当時の私は無下にお断りできず、入店を許してしまいました。帰られたのは12時過ぎ。

そこから片付け、家に帰ってみれば深夜2時です。それが毎晩のように続いたらどうでしょうか?まるで奴隷のようです。絶対に、続きません。
お客様第一主義にかけている視点
「お客様の為に」とはいえ、経費や自分の時間、体力を削ってまでサービスすることは、結果として、利益率を大幅に下げ、自分のみならずスタッフの健康状態にも影響します。その熱心さが、業績をかえって悪化させることもあるのです。上記は極端な例かもしれませんが、そうやって潰れていくお店は実際にあるんです。
では、「お客様第一主義」に欠けている視点は何か?
それは視野の広さと高さ。そして、ほんとうのサービスとは何か、という哲学的思考の浅さです。
視野の広さと高さ
いまの状況が続いたときに、将来どうなるのか?それを許したときに、他のお客様や、スタッフにはどういう影響を及ぼすのか?会社の規定は何のためにあるのか?
そういった思考が欠けているのです。
「お客様第一主義」を掲げるのも、そうしたことを踏まえていれば良いのですが、たとえば学生のアルバイトが入ってきたときに、それをうまく伝えられるかというと難しいところがあるでしょう。言葉自体の持つ意味がとらえる人によって、その広さ深さが違うので、解釈にも違いが生まれます。
「お客様の為に」と私も部下の指導ではよく言っていましたが、良いように見えて、詳細までその意味を伝えないとかえって危険な言葉です。
哲学的思考
もうひとつ、考えておきたいことは、「お客様とは誰のことをいうのか?」ということです。あまりにお店に負担をかけるお客様を、お客様と呼べるのか、考えるべきです。冷たい言い方になるかもしれませんが、企業にとっては、利益を上げさせてくれるから、お客様であって、そうでなければ、何なのでしょう?
持続する運営を考えたときに、お客様の選別というのは必要なことだと思っています。そして顧客サービスとは、お客様のいいなりになることで、お客様を満たすことではありません。かえって、きちんとした哲学をもって断ることで、お客様もお店に対し魅力を感じたりするものです。
時代と逆行する飲食業界の行方と、新しい活路
日本の人口は2008年をピークに減少に転じています。人口の推移というのはほぼ確定した未来。2020年現在、65歳以上の方は1億2000万人のうち、約3600万人。約30%です。
これが2055年になると、人口は約9000万人、うち約3600万人が65才以上。40%が65才以上ということです。
時代と逆行する飲食業界
当然のことながら、飲食店も年々減少傾向ではあります。しかし収益を上げる飲食店のビジネスモデルは、未だに多店舗展開が主流。多店舗展開しないと儲からない。というのが飲食店の構造なのです。
これは、時代と明らかに逆行している。
インバウンド市場の基盤は脆かった
新型コロナウイルスで露呈したのは、インバウンド市場の脆さです。内需が減退している為、飲食業界だけではなく政府が観光産業に乗り出しました。マーケットの規模は人口と比例しますから、生き残るためには仕方のない選択だったかもしれません。
しかし持続性を考えれば、人口70億人を突破して、地球の資源を食い尽くそうとしている人類と同様。いつかは、市場がなくなり激しい争いが始まります。
互いに消耗しあうのではなく、内需で収益を上げる仕組みなり、付加価値を考え出すことが、社会が、ひいては地球が求めていることではないかと思います。
健康産業に活路?
いま、食の業界をリードしている企業はどこでしょう?
こうした状況を受けて、限りある資源をひたすら消耗するのではなく、刈り取るのではなく、持続可能をテーマに取り組む事業は、ここ数年で増えてきましたね。学生時代勤めていたイタリア料理店では、オーナーが植物工場を立ち上げました。天候に左右される事なく、広い土地を必要とせず、人の力も最小限で組み立てられるようパッケージにして代理店を作っていってます。
また、水揚げが減る海産物も商品価値を高める為、活〆の技術が高くなりましたし、それまで見向きもされなかった魚たちの美味しい活用法も見直されました。それを高値で販売することで、事業継承に苦しむ漁師が潤い、ロスが減り、なおかつ消費者の満足も高くなります。
しかし、時代の先を見た時、必要とされるのはそれだけではぜんぜん足りません。
30~40%を占める65才以上の悩み
人は、できれば苦しみを避けたい。できるなら人に迷惑をかけず、最期の一瞬まで生きながらえたい。多くの方が望むのは、健康でいる事かなと思います。アメリカでは、予防医学がずいぶん進化しているようです。
病気になってから慌てるのではなく、病気にならないように、生活を改める。それには、どんな食事が最適かということが明確になってきたんですね。
資源の有効活用と、知的ワーク
「食」というのは科学にも、歴史文化にも、それから政治、経済、宗教、自然環境や文化人類学、そして医学にも通じています。高みを目指せば非常に知的な仕事です。ただ飲食業界は参入障壁が低いため、誰もが参画できるマーケット。
その分、自然淘汰の力が激しく働きます。統計的な事実として、倒産確率は開業10年内に90%以上。これからの時代に10年支持されるには、「美味しい」とか「安い」だけでは持たないでしょう。
しかしもし、飲食店が「予防医学」という領域に入ることが出来れば?
人口の30~40%に相当する巨大なマーケットに対して、これまでとは違った価値を提供できる。もちろん悲鳴を上げている地球の資源の事も考えたながら、より高い次元で仕事出来れば社会から30年間求められる存在になるのではないか?
とそんな風に考えています。